日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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教育講演
吸気筋トレーニングの現状と展望
塩谷 隆信照井 佳乃川越 厚良
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2025 年 35 巻 1 号 p. 1-11

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要旨

吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training: IMT)は,呼吸筋力と呼吸筋持久力を増加させ,運動耐容能,呼吸困難,健康関連QOLなどを改善させる.IMTは主として吸気抵抗負荷法が行われ,機器としてはスレショルド型(固定負荷方式)に加えて,最近,テーパー型(漸減負荷方式)という新しい機器が登場している.IMTは,呼吸リハ・プログラムの重要な種目であり,COPD,間質性肺炎などの呼吸器疾患において実施され,その効果に関しては多くのエビデンスが確立されている.

IMTは循環領域では,心不全,脳血管障害などでそのエビデンスが報告され,また,正常高値血圧の降圧効果が確認されている.近年,IMTはスポーツ領域にも展開しており,様々なスポーツでパフォーマンスの向上が報告されている.IMTに関しては,今後,ますます多くの領域においてその普及が期待される.

はじめに

吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training: IMT)は,呼吸をする際に呼吸筋に種々の負荷を加え,意識的に努力呼吸をさせて呼吸筋力を増加させる方法である1,2,3,4,5.IMTの種類としては,吸気抵抗負荷法,インセンティブスパイトメトリーなどの過換気法,腹部重錘負荷法などがあるが,その効果のエビデンスが確立しているのは吸気抵抗負荷法だけである6,7,8.インセンティブスパイトメトリーの呼吸器合併症の予防に関してSystematic Reviewでは効果はないことが報告されている9,10

現在,IMTは,主として呼吸器疾患に対して実施されているが,その効果としては,1)呼吸筋力と呼吸筋持久力の改善,2)運動耐容能の改善,3)呼吸困難の改善,4)健康関連QOLの改善などがある1,2,3.IMTは多くの呼吸器疾患において実施され,その効果に関しては多くのエビデンスが確立されている1,2.IMTにおいてSystematic ReviewやRCTにてエビデンスとして報告されているのは,慢性閉塞性肺疾患(COPD)1,11,特発性肺線維症(IPF)12の呼吸器疾患や,循環器疾患である慢性心不全13,14,15と脳血管障害16,17,周術期18,人工呼吸器離脱19である.最近では,降圧効果20,21,スポーツ領域22,フレイル23,女性の尿失禁24においてもその有効性が報告されている.

本稿では,IMTの基礎事項として,使用する機器と実施方法,COPDにおける最新のエビデンス,次に,心不全と脳血管障害のエビデンス,さらに,その応用が広まってきているスポーツ領域における展開に関して概説する.スポーツ領域においてIMTの有用性が報告されているのは,自転車競技,ボート競技,陸上長距離走,水泳競技などであり持久力が必要とされる競技が多い25

吸気筋トレーニングの機器,実施方法(運動処方)に関して

吸気抵抗負荷法に用いられるトレーニング機器は,内部のスプリングの長さを圧縮あるいは伸展させることにより抵抗を変化させるスレショルド型が中心である6,7,8.最近,バルブ弁口面積をテーパーリング方式により変化させるテーパー型の装置が開発され,臨床応用が始まっている26図1には,従来型であるスレショルド型(閾値型;固定負荷式)と最近開発されたテーパー型(パワーブリーズ型;漸減負荷式)のIMT機器の外観と作用機序について図示した(図16,26.テーパー型の特徴は,初期の負荷圧は同程度にかかるが,その後弁面積がテーパリング方式により変化するために負荷圧は漸減する.テーパー型では吸気に伴い負荷圧は漸減するが,流入する気量はむしろ増加するため仕事量としてはスレショルド型に比較して大きくなるという特徴がある26.さらに,テーパー型では,吸気開始とともに負荷圧が漸減するために,吸気に伴う努力感は低下することから,スレショルド型に比較して小さい努力で大きなトレーニング効果が得られることが報告されている(図16,26

図1 スレショルド型とテーパー型の負荷様式の違い(文献6,7,8,26より改変引用)

A:スレショルド型(閾値型:固定負荷式)B:テーパー型(電動制御型)C:スレショルド型の圧―量―仕事曲線 D:テーパー型の圧―量―仕事曲線

IMTの実施方法(運動処方)としては,最大吸気圧(maximal inspiratory pressure: PImax)の30%-80%で週5-7回,1回15分1日2回という時間指定が標準であった1,2.しかし,近年,実施回数に関しては1セット30回1日2セットという回数指定方法において十分な効果とアドヒアランスが良いことが報告されていることから8,26,27,回数指定方法がIMT実施の標準方法となってきている7,8,25,26

COPDにおける吸気筋トレーニングのエビデンスとその長期効果

吸気筋トレーニングの科学的エビデンスとしては,2011年のGosselinkらの Systemic Reviewでは,IMTにより,最大吸気圧(PImax),呼吸筋耐久力,漸増負荷圧,運動耐容能,ボルグスケール,呼吸困難(TDI),健康関連QOL(CRQ)の全ての項目で有意な改善が得られている(表11.Cochrane Library(2023)11は,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)におけるIMTの有用性に関して,最新のsystematic reviewを報告している.この報告では,IMT 単独の実施ではPImaxは有意に改善した(図211.呼吸リハにIMTを併用すると呼吸筋力低下群においても非低下群においても,呼吸リハ単独群に比較してPImaxが有意に増加した11.次に,IMT 単独の実施では6分間歩行距離(six-minute walk distance: 6MWD)は,IMTの実施期間が4週間未満の短期間でも,4-8週の中期間でも,8週以上の長期間でも有意に改善する(図311.しかし,呼吸リハにIMTを併用すると呼吸筋力低下群においても非低下群においても,呼吸リハ単独群に比較して6MWDに有意の差は認められなかった(図411.このことは,呼吸リハにおいては,運動療法などによる6MWDの改善効果が大きいことを示したもので,IMTの効果が否定されたものではないということであり,その解釈には十分な注意が必要である.

表1

図2 吸気筋トレーニング(IMT)単独の最大吸気圧(MIP)に及ぼす効果に関するSystematic Review(文献11より改変引用)

図3 吸気筋トレーニング(IMT)単独の6分間歩行距離(6MWD)に及ぼす効果に関するSystematic Review(文献11より改変引用)

図4 呼吸リハビリテーションにおいて吸気筋トレーニング(IMT)の併用が6分間歩行距離(6MWD)に及ぼす効果に関するSystematic Review(文献11より改変引用)

略語:MIP: maximal inspiratory pressure; 最大吸気圧

我々は,多施設が参加した国内の比較対照試験において,呼吸リハに IMTを併用する群と併用しない群にわけて8週間検討したところ,IMT併用群において,PImax,6MWD,歩数,運動強度の全てが有意に増加することを報告した(図58.続いて我々は,COPD患者32名(男性28名,女性4名,平均年齢76.9±5.7歳において1年間の長期IMT継続が呼吸筋力に及ぼす影響を後方視的に検討した.その結果,IMT継続群(17名)において,PImaxが継続後に有意に増加したが,IMT非継続群(15名)ではPImaxは変化なく,IMTの長期継続が有用である可能性が示唆された(図628.今後,IMTの長期効果に関しては,前向きの比較対照試験による成績が待たれる.

図5 吸気筋トレーニング(IMT)の身体活動量に及ぼす影響:多施設比較対照試験(文献8より改変引用)

略語:PImax(maximal inspiratory pressure:最大吸気圧) 6MWD(6 minute walking distance:6分間歩行距離)Steps(歩数) MVPA(moderate to vigorous physical activity:中高強度身体活動量)

図6 長期吸気筋トレーニングの最大吸気圧(PImax)に及ぼす影響(文献28より改変引用)

循環器領域

1. 心不全

慢性心不全では,systematic reviewにおいてIMTの有用性が報告されている13,14,15.その中で,Azambujaらは,2019年までのMEDLINE,EMBASE,Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどのデータベースをもとにして,心不全患者に対して実施されたIMTに関する比較対照試験で実施された文献を検索して適正と考えられた13論文に関してメタアナリシスを行なった15.その結果,IMTにより吸気筋力は有意に増加した.また,呼吸筋力低下がみられない群において呼吸筋力の低下のある群においてもIMTにより吸気筋力は有意に増加した(図715.運動耐容能の指標である6分間歩行距離(6MWD)は,40%PImaxまでの負荷圧でIMTを実施した群では6MWDが有意に改善したが,吸気筋力低下がない6週間までの群においてはIMTでは6MWDの有意な改善は認めなかったとしており,IMTの適応と実施期間の重要性が示唆されている(図815

図7 心不全患者における吸気筋トレーニングの最大吸気圧(PImax)に及ぼす効果に関するSystematic Review(文献15改変引用)

図8 心不全患者における吸気筋トレーニングの6分間歩行距離(6MWD)に及ぼす効果に関するSystematic Review(文献15改変引用)

2. 脳血管障害

脳血管障害におけるIMTの有用性に関して,Fabero-Garridoら16がsystematic reviewを報告している.まず,脳血管障害患者において短期間のIMTはPImaxを有意に改善することが報告されている16.次に,短期間のIMTあるいは単独IMTは,6MWTあるいはサイクルエルゴメータによる運動耐容能を有意に改善させ,短期間のIMTは対照群に比較して1秒量は改善させなかったが,ピークフロー(PEF)を有意に増加させることが示されている(図916

図9 脳卒中患者における吸気筋トレーニングの効果に関するSystematic Review(文献16より改変引用)

A:運動耐容能:IMTとコントロールの短期間の比較 B:運動耐容能:IMT単独とコントロールの短期間の比較 C:1秒量(FEV1):IMTとコントロールの短期間の比較 D:ピークフロー(PEF):IMTとコントロールの短期間の比較

3. 降圧効果

最近,Craigheadらは正常高値血圧を有する中高年に対して,IMTを実施して降圧効果がみられたことを報告した(図1020.その中で,IMTの降圧のメカニズムとして,in vitroの実験で血管内皮においてiNOS(inducible Nitric Oxide Synthase)や一酸化窒素(NO)の産生を増加,ROS産生を抑制することで血管内皮機能を改善することがIMTの降圧のメカニズムであることを明らかにした(図1020.Craigheadらは若年成人や中高年に対して高強度IMTを実施して降圧効果がみられた5つの論文をまとめて報告している(表221,29,30,31,32.今後,IMTの降圧効果に関しては,低強度IMTの効果,通常の高血圧に対する効果などの臨床的検討が待たれる.

図10 正常高値血圧に及ぼす吸気筋トレーニング(IMST)の効果(文献20より改変引用)

A:収縮期血圧(SBP) B:拡張期血圧(DBP) C:血流依存性血管拡張反応 D:一酸化窒素(NO)産生

表2

スポーツ領域のパーフォーマンスの向上

近年,IMTの効果について,持久力の向上,呼吸効率の改善,乳酸蓄積の減少,筋力パワーの向上,リカバリーの改善,精神的な効果など運動パフォーマンスの向上が報告されている33

IMTのスポーツ領域でその有用性が報告されているのは,自転車競技,ボート競技,陸上長距離走,水泳競技などであり持久力が必要とされる競技が多い28,34表3にはIMTの自転車競技,ボート競技,陸上長距離走,水泳競技のタイムトライアルの改善効果に関して,IMTの実施期間,最大吸気圧(MIP),パーフォーマンス,それぞれの報告についてまとめて示した(表335,36,37,38,39.Sheiらは,IMTのスポーツ領域において臨床,職業,環境,スポーツにおける応用の要約と,IMTの効果のメカニズムについて提唱している(図1133

表3

ActivityIMTMIP post IMT
(pre IMT value)
PerformanceReferences
20 km cycle TT
40 km cycle TT
6 weeks IMT↑ 24%(102 cmH2O)65 s(3.5%)faster
114 s(3.4%)faster
Romer, LM(34
(2002)
6 min all out row
5,000 m row TT
4 weeks IMT↑ 38%(104 cmH2O)3.4 s(1.1%)faster, ↓ IMF,
↑ tidal volume(7%)36 s
faster
Volianitis, S(35
(2001)
Yo-Yo running
test
6 weeks IMT↑ 32%(145 cmH2O)distance ↑ 16%, rate of
breathlessness
↓ 11%
Kwokkeung, T
36)(2009)
800 m run TT4 weeks IMT↑ 16%(113 cmH2O)3.8%(6.2 s)fasterChang, YC(37
(2021)
5,000 m run TT4 weeks IMT↑ 15%(148 cmH2O)4.3% fasterEdwards, AM
38)(2008)
Swimming
100, 200 TT
6 weeks IMT↑ 35%3-7% fasterLomax, M(39
(2019)

図11 吸気筋トレーニング(IMT)の適応とIMTによる改善のメカニズム(文献33より改変引用)

IMTの効果は集団間で異なっており,その理由としてIMTによる改善がみられる研究もあれば,そうでない研究もあることが指摘されている40,41,42.さらに,個々の特性やトレーニングのニーズを考慮せずに標準化されたIMTプロトコルがすべての研究参加者に一律に適用されている可能性も指摘されている40,41,42.また,改善しないと報告した論文は吸気筋トレーニングの初期(1980-1995年)に多くみられ,その原因がコントロールの有無,選択方法や実験計画が杜撰な点にあるという指摘もある40,43

今後は,スポーツ領域のIMTトレーニングプロトコル(負荷程度,頻度,時間,種類.個別化)の最適化が必要とされる.こうしたIMTプロトコルを統合して長期の効果を得るためにプログラムに取り入れる必要があり,また,性差も考慮する必要がある40,41,42,43,44

おわりに

吸気筋トレーニング(IMT)は,呼吸筋力と呼吸筋持久力を増加させ,運動耐容能,呼吸困難,健康関連QOLを改善させる.IMTは,呼吸リハ・プログラムの重要な種目であり,COPD,間質性肺炎などの多く呼吸器疾患や心不全などの循環器領域において,その効果に関する多くのエビデンスが確立されている.さらに,近年,IMTはスポーツ領域に展開しており,様々なスポーツでパフォーマンスの向上が報告されている.IMTに関しては,今後,ますます多くの領域においてその普及が期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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