2025 年 35 巻 1 号 p. 28-32
慢性呼吸器疾患患者における日常生活活動(ADL)の評価は,疾患特異的なアプローチが重要である.長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(Nagasaki University respiratory ADL questionnaire; NRADL)は,動作速度,呼吸困難,酸素流量,連続歩行距離を評価項目としており,疾患特異的なADL評価を可能にする信頼性・再現性・反応性に優れたツールである.NRADLは,単に定量的な評価にとどまらず,問診や観察による定性的評価と併用することで,より包括的なADLの把握に有用である.また,患者の年齢,重症度,併存疾患,生活環境などの背景因子を考慮した多角的評価を行うことで,臨床における判断の制度を高めることができる.しかし一方で,NRADLにはいくつかの限界も存在する.そのため,これらを理解した上で適切に活用することが,慢性呼吸器疾患患者のADL維持・改善に向けた臨床実践において極めて重要である.
慢性呼吸器疾患患者における日常生活活動(activities of daily living; ADL)の低下は,運動耐容能の低下や呼吸困難の増悪だけでなく,生活の質(quality of life; QOL)の低下や社会参加制限,さらには生命予後にも影響する.
在宅呼吸ケア白書において1),呼吸器疾患患者の日常生活では入浴,荷物の持ち上げ,階段昇降などの動作が息切れや介助を必要とする頻度が高いことが示されており,特に重症例では70%以上が入浴に介助を必要としている.そのため,呼吸リハビリテーションに関するステートメントにおいて,呼吸リハビリテーションを提供するにあたりADLは必須の評価と位置付けられている2).
従来,ADLの評価にはBarthel index(BI)やfunctional independence measure(FIM)が広く用いられてきた.しかし,これらは呼吸器疾患特有の症状である呼吸困難やこれによる運動制限を十分に反映しないことが指摘されている3).例えば,FIMはコミュニケーションや社会的認知を含む総合的評価であるが,呼吸困難の程度や酸素療法の要否といった疾患特異的要素は評価項目に含まれない.そのため,慢性呼吸器疾患患者のリハビリテーション効果判定や介入目標設定には限界があった.
この課題を解決するため,慢性呼吸器疾患患者に特化したADLの評価ツールとして,Nagasaki University respiratory ADL questionnaire(NRADL)が開発され,本邦において汎用されている.本稿では,NRADLの概要,信頼性・妥当性・反応性,評価方法の実際,臨床応用例を紹介し,その意義と限界について考察する.
NRADLは,入院患者向け(入院版)と外来患者向け(外来版)の2種類があり,各ADLの項目の動作速度,呼吸困難,酸素流量を評価に加え,連続歩行距離の4項目から構成される(図1).入院版と外来版の違いは,入院版の病室内移動,病棟内移動,院内移動,外出・買い物の項目が外来版では屋内歩行,外出,荷物の運搬・持ち上げ,軽作業に変更されている.

各ADLの項目においては0~3点,または0~10点で評価し,総合点は100点となる(図1).
・動作速度(/30点):スムーズに行えるか,休憩を要するか
・呼吸困難(/30点):なし~高度
・酸素流量(/30点):不要~2 L/min以上
・連続歩行距離(/10点):50 m未満~1 km以上
3. 信頼性・妥当性・反応性入院版の評定者内・評定者間信頼性はいずれも高く(ICC>0.8),Cronbachのα係数は0.853と内的一貫性も良好であった4).外来版でも基準関連妥当性,構成概念妥当性が確認され,BDI(Baseline Dyspnea Index)変化量や6分間歩行距離(six-minute walk distance; 6MWD)変化量と有意な相関を示した(r=0.561, p<0.01; r=0.383, p<0.05)5).さらに,呼吸リハビリテーション後の各臨床指標の改善も認められ,反応性の高さが確認されている6).
実際の評価の手順に加え,症例を通したNRADLの結果の解釈について述べる.
1. 評価手順(図2)NRADLは必ず問診と観察を組み合わせて行うことが重要である.問診では以下を確認する.
①息が苦しい動作の有無とその内容
②息切れのために避けている動作はないか.
③以前は行えていたが困難になった動作はないか.
④家族や介助者に手伝ってもらっている動作はないか.
上記問診で問題となっているADLを徴取できたら,その動作の実際を観察する.その際,動作手順,速度,動作時の姿勢,経皮的動脈血酸素飽和度(saturation of percutaneous oxygen; SpO2)や脈拍の変動を確認し,必要に応じて動作を再現してもらう.酸素療法中の患者では酸素流量と症状の関係も評価する.

NRADLは点数化が可能であるが,点数のみでは患者の主観的困難や生活背景を反映できない.例えば,同じスコアでも,動作の一部が困難な場合と全体が困難な場合では介入方針が異なる.そのため,患者・家族の要望や生活パターン,環境要因を把握し,プログラム立案に反映させる必要がある.
症例1:60歳代男性,COPD(GOLD stage IV),外来(図3)主訴;全く息切れはないが,友達と同じスピードでは歩けず頻繁に休憩する
本症例のNRADLの評価結果を図3に示す.本症例の場合,自覚症が乏しいために,息切れにおいては全てのADL項目で「呼吸困難なし:3点」となる.しかし,6分間歩行試験では 180 mであり,SpO2 は96%から85%まで低下,脈拍も82回/分から128回/分まで上昇する.修正Borg scaleで呼吸困難は0から3と臨床病態と自覚症状のミスマッチが生じており,NRADLの結果のみで判断することは非常に危険である.そのため,他の指標の変動を確認や定性的な評価が重要といえる.

60歳代男性,COPD(GOLD stage IV),外来.
主訴;ゴルフするときに息が苦しい
デマンド;ゴルフが楽に行えるようになりたい
8週間,週3回の頻度で呼吸リハビリテーション実施したところ,NRADLは呼吸リハビリテーション介入前80点から介入後94点と改善を認めた.本症例の場合は,NRADLに息切れの項目が含まれていることで呼吸器症状によるADL制限を詳細に評価判定できている.

60歳代,男性,COPD(GOLD stage II),外来.
主訴;動くと息が苦しい
デマンド;楽に歩けるようになりたい
入院にて呼吸リハビリテーションを6週間実施したが,動作時の低酸素血症が著しく,長期酸素療法の適応となり退院となる.本症例の場合,NRADLは入院時66点であったものが,退院時は51点と悪化した.しかし,これは長期酸素療法による影響であり,動作速度や息切れにおいては各ADL項目では改善している.このような症例の場合は,NRADLの点数が下がったことでADLが低下したとは言えない.

60歳代,男性,COPD(GOLD stage III),入院.
NRADL評価は,呼吸器疾患患者のADLを疾患特異的に捉える評価ツールであり,信頼性・反応性が高く,プログラム立案や効果判定に有用である.しかし,その活用にあたっては幾つかの限界と留意点が存在する.NRADLは呼吸器疾患患者の特に呼吸困難の程度や酸素流量の変化をADLの中で評価できる点は,一般的ADL評価にはない特徴である.
まず,NRADLの点数化のみでは十分な臨床像を捉えることが困難である.症例でも示したように,評価に先立ち問診を通じて,①家族や介護者の要望,②必要とされる具体的動作,③本人の最も強い希望,④本人・家族の生活パターンを十分に把握することが不可欠である.そのうえでNRADLを実施し,どの項目に問題があるのか,呼吸困難の有無,動作速度などを詳細に検討する必要がある.また,NRADLは定量的なスコアリングに優れる一方,実際の動作場面を観察し,SpO2や脈拍の変動を含めた定性的な評価を併用することが求められる.これらの情報を総合して,「筋力の不足が問題なのか」,「呼吸法の未習得が障害となっているのか」といった具体的な課題を抽出し,練習や指導内容に反映させることが重要である.さらに,NRADLを解釈する際には,患者個人の多様な背景を考慮する必要がある.すなわち,疾患の重症度や病型のみならず,生活習慣や行動特性,精神状態,意欲,家族構成や人間関係,生活環境や使用している道具,または経済状況,地域の習慣や気候といった要因も,ADL遂行能力に大きく影響する.
加えて,著者らが以前実施した調査研究では,臨床でのADL評価としてはNRADLよりもBIやFIMが多く用いられていることを明らかにした7).このことは,NRADLが呼吸器疾患患者に特化した利点を有する一方で,その特性が十分に活かされず,一般的なADL評価尺度に依存している現状を反映していると考えられる.したがって,NRADLのメリットとデメリットを正しく理解した上で,評価目的や対象患者に応じて適切に活用することを改めて見直す必要がある.
今後展望のとして,NRADLなどの定量的指標を基盤としつつ,患者の個別性を踏まえた定性的評価や他の包括的評価法と組み合わせることで,より精緻で臨床的妥当性の高いADL評価を確立していくことが求められると考える.
NRADLは慢性呼吸器疾患患者のADL評価において信頼性・反応性が高く,臨床での有用性が高い.評価は点数化と定性的情報を組み合わせ,患者・家族のデマンドを反映させることが重要である.適切な評価により,リハビリテーションプログラムの質と効果判定の精度向上が期待される.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.