日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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呼吸ケア・リハビリテーションの地域包括ケアシステムにおける検証
中田 隆文平林 大輔
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2025 年 35 巻 1 号 p. 43-47

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要旨

呼吸ケア・リハビリテーション(呼吸ケア・リハ)の地域包括ケアシステムにおける検証を行った.呼吸リハは生活期を中心に終末期まで継続され,地域包括ケアシステムの目的や意義と一致する.人生会議(Advance Care Planning: ACP)においては終末期の予想が難しく,疾病リスクの認識が医療者と患者家族で乖離することがあり,リスクマネジメントは医療者の努力に依存している可能性がある.住まいと住まい方では民間の介護施設入所者が増えているが,医療アクセスのアセスメントが重要となる.介護医療院,看護多機能事業所の呼吸ケア・リハの役割が期待される.総合事業において体力改善や健康管理などの対象者は地域リハ活動支援事業の適応となるが,呼吸ケア・リハの知識を持つ人材育成が望まれる.在宅における呼吸リハは普及していなかった.訪問看護や訪問リハには保険制度上の制約があり,定められた範囲内での実践が求められるが,終末期においても症状緩和の役割が期待されている.

地域包括ケアシステムと呼吸ケア・リハビリテーション(以下,呼吸ケア・リハ)

日本における公的介護保険制度(以下,介護保険)は課題となっていた急速な少子高齢化,核家族化,家族の介護負担を解消し,介護を社会全体で支える目的で2000年に施行された.さらに2005年の介護保険改定では初めて「地域包括ケアシステム」という言葉が使われ,全国に少子高齢化により引き起こされる問題を緩和する措置として地域包括支援センターが設置された.地域包括ケアシステムは高齢者が重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができることを目的としており,保険者が地域の特性に応じて作り上げることが必要とされ,その対象には慢性呼吸器疾患患者などの呼吸障害者も含まれる.地域包括ケアシステムの理念に従えば慢性呼吸器疾患患者であっても介護を予防し,介護が必要となっても可能な限りの自立生活と身体活動の維持,疾病の増悪や進行の予防,増悪時の医療へのアクセスなどを医療・介護・福祉の連携で人生の終末期までシームレスに関わることとなる.地域包括ケアシステムの構成要素は,本人の意思および本人と介護者の心構え,住まいと住まい方,予防と生活支援,医療,介護,福祉サービスであり,これらはその患者の住む地域の特性に影響を受けながら入手可能なサービスを組み合わせ,一体的に提供されるものとされる.慢性呼吸器疾患患者の在宅生活は,在宅医療を実践する医療機関の増加,介護・福祉サービスや施設の増加などで一部地域では充足してきているが,これらの資源に乏しい地域もあり,地域格差があることも知られている.本稿では地域包括ケアシステムにおける在宅呼吸ケア・リハの現状と課題について,筆者の活動する盛岡市における現状などを踏まえて述べる.

現状

1) 本人の選択,本人と家族の心構え

地域包括ケアシステムにおける呼吸ケア・リハの現状としては,在宅医療を必要とする慢性呼吸器疾患患者は通院困難な重症例が多く,急変や増悪のリスクが高いことが特徴的である.慢性呼吸器疾患における増悪は生命をも脅かす重要なイベントであるが,増悪予防は困難で,さらにどの増悪が死に至るのかの判断が難しいことが知られている1.在宅では維持期(生活期)を中心に急性期,増悪期,回復期と状態が変遷する中においても終末期まで継続するものとされており2,呼吸ケア・リハはかかりつけ医の治療方針や人生会議(advance care planning: ACP)に従って実施される.慢性呼吸器疾患患者のACPは増悪後に状態が安定した時期に行うことが推奨3されているが,増悪経験後であっても患者・家族において次の増悪に備える意識や理解が難しい場合があり,医療者の抱える危機感が患者・家族の意識と乖離する場合もある.結果的に可能な限り患者・家族の協力を得ながら,医療者が増悪を早期発見し早期対応する方針となりやすい.医療機関内と異なって専門的な検査や評価が困難な在宅においては,患者宅に訪問する医療者の知識や経験に依存した対応が行われている現状があり,さらに急性期から終末期までのあらゆるステージに対応する能力が求められている.在宅での呼吸ケア・リハの役割としては増悪や異常の早期発見と専門的な医療への適切なアクセスが重要となる.

2) 住まいと住まい方

近年の高齢者の住まいは独居世帯の増加や同居家族の就労・就学などの社会背景もあり,自宅や家族の居宅だけではなく,介護施設の入居もある.住まいとなる介護施設や社会福祉施設には大きく公的施設と民間施設(表1)がある.入所費用と入所しやすさに関して,公的施設は費用が低額である一方で入所待機者が多いことが知られており,民間施設では公的施設に比較して費用は高額となる一方で入所は比較的容易である.入所施設によっては在宅医療機器の取り扱いや患者の病態変化時における対応には差異が見られるため,入所を検討する際には,想定される病態の進行や増悪に対して当該施設での対応の可否,さらに必要時に適切な医療機関へのアクセスできる体制が確保されているかを確認する必要がある.その上で,患者本人と家族,さらに関与する医療者間においてもリスクを含めた合意形成を図ることが重要となる.

表1 呼吸障害の生活の場所となり得る場所と介護サービス

◯自宅
◯子ども,親族などの家
◯介護保険施設(公的施設)
 ・軽費老人ホーム(ケアハウス)
 ・養護老人ホーム
 ・特別養護老人ホーム
 ・介護老人保健施設(通常3ヶ月以内)
 ・介護医療院
◯介護保険施設(民間施設)
 ・有料老人ホーム
 ・サービス付き高齢者向け住宅
 ・認知症高齢者グループホーム
◯障がい者グループホーム
◯介護保険複合型サービス
 ・小規模多機能型居宅介護
 ・看護小規模多機能型居宅介護

介護施設は医師の配置や看護師の配置が義務化されているが,位置づけとしては居宅または医療提供施設となる.介護施設では専門的な医療機関と同様の治療や処置の実施は困難となるが,医療者が配置されているため必要時には医療機関へのアクセスが行われる.有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅に代表される社会福祉施設の多くは民間施設であり,基本的に医師や看護師の配置義務はない.しかし「特定施設入居者生活介護」の要件を満たす社会福祉施設は看護師の配置が義務付けられている.社会福祉施設入所者のかかりつけ医は入所施設外の医療機関の医師となり,在宅医療の適応となる場合が多い.社会福祉施設は高齢の慢性呼吸器疾患患者において終の棲家となる可能性もある.障がい者グループホームは幅広い年齢層にも対応可能な居宅であり,慢性呼吸障害者においても,ある程度生活が自立した若年者の居宅として可能性を広げてきている.新たに呼吸ケア・リハの実践が期待される施設として,介護医療院と看護小規模多機能型居宅介護がある.介護医療院は要介護高齢者の長期療養や生活のため医療,リハビリテーション,介護などが一体的に提供される施設で,看護小規模多機能型居宅介護は看護師の配置が充実しており,短期入所,通所,訪問看護が複合的に実施できる施設で,いずれも呼吸ケア・リハが実施可能である.

3) 介護予防・生活支援

介護保険制度上で「介護予防・日常生活支援総合事業」(以下,総合事業)として位置付けられており,市町村が中心となって地域の実情に応じて住民等の多様な主体が参画し多様なサービスを充実することとされており,地域リハビリテーション活動支援事業(図1)の位置付けがある.それぞれの地域における社会資源には地域差が大きいことも知られており,地域で入手可能なサービスを有効活用する工夫が求められる.総合事業の対象者は介護保険の要支援認定者,40歳~64歳までの要介護者,65歳以上で要介護度認定の非該当となった者となる.呼吸器疾患に関しては「介護予防・日常生活支援総合事業のガイドラインについての一部改正について」4において,「専門職の訪問の適応」との具体的であった従前の説明が改正されているが,体力の改善,健康管理の維持・改善,閉じこもりに対する支援,(手段的)日常生活動作の改善に向けた支援が必要な患者が対象となり,総合事業のサービス対象となった患者には保健・医療の専門職の訪問が可能となる.総合事業の実施には担い手の養成やサービスの開発,ネットワーク化,サービスのマッチングを行うコーディネータの役割が重要であり,コーディネータに対して呼吸障害についての教育や情報提供,コーディネート活動支援が必要と考えられる.

図1 総合事業における地域リハビリテーション活動支援事業4

4) 医療・看護・リハ・介護

在宅医療の中軸である訪問診療の件数は増加している一方で在宅での高度医療に携わる施設数は増えておらず,一部の医療機関で対応に当たっていることが知られている.訪問看護ステーションの多くは在宅呼吸療法機器にも対応可能であり(図25,在宅医療のゲートキーパーとして重要な役割を担っている.訪問リハは介護保険と医療保険の制度上,実施できる時間が基本的に週120分までと限定的であり,この時間内で対象となる患者に必要な呼吸リハを実施する.さらに介護保険では介護度毎に月々の利用限度額が設定されており,この利用限度額を超過したサービス費用は患者10割負担となる.訪問介護や福祉用具,通所介護(デイサービス)などの介護サービス利用を優先した結果,患者の費用負担の軽減のため訪問看護や訪問リハの利用を断念することも経験される.増悪予防を始めとする疾病管理やリスクマネジメントはACPにおいて軽視されてはならず,眼前の介護だけを優先させることには注意が必要である.医療保険での呼吸ケア・リハでリスクマネジメントが手薄になることは考えにくく,医学的なリスクと対費用効果を考慮し,介護保険申請を見送り,医療保険(可能であれば障害サービスを追加)を利用することも選択肢として持つべきである.在宅における呼吸リハの実践は訪問看護や訪問リハ時だけの実施では通常不十分であり,患者と家族のセルフマネジメント,他職種によるサービスの活用,環境を生かしたアプローチの視点が重要となる.

図2 盛岡市における訪問看護ステーションの在宅医療(処置)への対応(在宅医療介護連携事業チームもりおか資料より 2021年調査)5

在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)

非侵襲的換気療法(Non-Invasive Ventilation: NIV)

気管切開下陽圧換気療法(tracheostomy positive pressure ventilation: TPPV)

精神科訪問看護ステーション,小規模事業所でのみ要相談・対応不可があった.

訪問リハにおける呼吸リハは十分に普及していないと考えられる6.在宅では非がん呼吸器疾患の終末期への対応も求められるが,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)は症状緩和としても期待されており,呼吸リハに精通した理学療法士の在宅での活動が望まれる7.訪問看護や訪問リハでは医療機関内と比較して人材育成が難しいことも知られており,情報通信技術を応用した人材サポートの活用が望ましい.

課題

在宅医療を必要とする慢性呼吸器疾患患者の独居に代表される社会背景,重度化により生じる増悪に対するリスクマネジメントが難しいこと,安定期に行うACPは患者家族に理解されにくいこと,呼吸ケア・リハを担う医療機関・訪問看護ステーション・介護福祉サービスなどの資源の地域格差があり,さらに実施可能な施設に負担がかかっていること,地域医療介護(福祉)連携や総合事業を行う上での調整役(コーディネータ)の呼吸ケア・リハに関する理解や対応力に差があることが考えられた.

まとめ

地域包括ケアシステムにおける呼吸ケア・リハは社会資源として不足している可能性があり,患者と家族のセルフマネジメントの強化,地域・在宅で活動する人材育成と活動支援の視点は呼吸ケア・リハの普及に意義があり,医療者は増悪に代表される患者のリスクに対応できる様に準備しておく姿勢が重要と考えられた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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