日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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ランチョンセミナー
在宅ハイフローセラピー
~This is the way.~
門脇 徹
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2025 年 35 巻 1 号 p. 48-52

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要旨

近年,高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula; HFNC)が急性呼吸不全の呼吸管理において急速に拡大し,COVID-19の呼吸管理にも重要な役割を果たしたことは周知の通りである.

急性呼吸不全における成功体験から「HFNCを在宅で」というニーズが高まるのは当然の流れであり,慢性安定期COPDをターゲットに数々の臨床研究が行われた.特に本邦からのパイロット研究1とFLOCOP研究2がエビデンスの構築に大きな貢献をしている.在宅HFNC療法はこれらのエビデンスを元にCOPD限定で保険収載され,2022年4月から行えるようになり2年以上経過した.

本稿では在宅HFNC開始までの道のり(エビデンスの構築まで)を振り返り,そして在宅HFNCの現状について触れ,在宅HFNCの問題点と今後我々が進むべき道について考える.

HFNCの仕組みと生理学的メリット

HFNCは高流量(概ね 30 L/分以上)の酸素空気混合ガスを加温加湿して鼻カニュラで提供する,高流量システム酸素療法のひとつである3

この原理からもたらされる生理学的効果は①高濃度まで正確なFIO2 設定,②解剖学的死腔の洗い出し,③PEEP効果,④加温加湿効果,である3.また,鼻カニュラを使用するため,⑤非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)より快適性に優っており,医療スタッフにとっても簡便,という利点もある.

急性呼吸不全におけるHFNC

重要な生理学的効果は特に②によりもたらされる換気効率の改善である.頻呼吸患者において呼吸回数が速やかに減少し,呼吸困難が緩和されることをよく経験する.気道分泌物の多い患者においては④により排痰促進効果が得られる4

1. I型呼吸不全

I型呼吸不全で期待される生理学的効果は上記に加えて①・③である.③に関しては実際には 50 L/minのフローでもPEEPは 4 cmH2O程度と言われている4が,Small PEEPであってもcounter PEEPとしての効果や気道開存効果が酸素化には有利に働いているものと考えられている.

2022年のEuropean Respiratory Society(ERS)による急性呼吸不全におけるHFNCガイドラインによるとI型呼吸不全において条件による,とされるがHFNCがNPPVより推奨されている5.これはFLORALI研究でHFNC群がNPPV群より,挿管率が低く,予後良好であったという結果が大きいが,しかしこの研究ではNPPVの施行時間が1日8時間程度と短い,CPAPではなくBilevel PAPを用いている,などいくつかの問題点があった6.国内で行われたJaNP-Hi試験(NPPVとしてCPAPを用いて原則終日使用)ではFLORALI試験を反駁する結果であり,挿管基準を満たすような重症I型呼吸不全ではやはりNPPV(CPAP)が優先される7

2. II型呼吸不全

特に②による換気改善効果,PaCO2 低下が期待される.II型呼吸不全では病態が“Lung failure”(肺実質の問題による:代表的病態はCOPDなど)と“Pump failure”(胸郭の可動制限が本態:代表的病態は神経筋疾患や肺結核後遺症)に分かれる.HFNCの効果が期待できるのは前者である.

ERSガイドラインはCOPD増悪では,条件によりNPPVが優先される,としている5.近年のメタ解析ではpH 7.25-7.35の範囲の呼吸性アシドーシスであればHFNCとNPPVで死亡率に差がない,などのデータもある8.軽症呼吸性アシドーシスを呈するCOPD増悪患者の呼吸管理デバイスとしてはHFNCから治療を開始するのは可能であるが,重要なことはNPPVへのstep upのタイミングを逸しないことである.

3. 緩和ケア・終末期

緩和ケアにおいては下記の点でNPPVより優位性があり,快適かつ忍容性が良好4であることが示されている.

・食事や家族との会話が可能

・上気道の乾燥に有利

・ICU/HCU以外の場所でも使用可能

このような利点から,臨床現場ではHFNCの使用が増加している.

慢性呼吸不全における在宅HFNCの現状

1. COPDにおける在宅HFNC:エビデンスレビュー

慢性呼吸不全では主に慢性安定期COPDをターゲットに臨床研究が行われた9.この病態で期待される生理学的効果は主に②である.特に本邦からのパイロット研究1とFLOCOP研究2がエビデンスの構築に大きな貢献をしている.

国内のパイロット研究は在宅酸素療法中のCOPD患者29人を対象にHFNCを上乗せする・しない群のクロスオーバー試験として行われた.これらを統合解析した結果,酸素化,6分間歩行試験,スパイログラム,呼吸困難度については有意な改善を認めなかったものの,PaCO2(4.1 Torr低下),平均夜間経皮CO2(5.1 Torr低下),さらにSGRQ(total 7.8ポイント低下)について有意に改善することが示された1.この結果を受けて多施設ランダム化比較試験(FLOCOP試験)が行われた.これは在宅酸素療法中で1年以内に中等症以上のCOPD増悪歴のあるCOPD患者を対象に52週間にわたってHFNCを上乗せする群(n=49,開始前PaCO2 51.4 mmHg)と在宅酸素療法のみ継続する群(n=50,開始前PaCO2 50.5 mmHg)に分けて行われた.主要評価項目である1年間の中等症以上のCOPD増悪の回数はHFNCを上乗せした群で有意に減少し(1.0回/年 対 2.5回/年),さらに健康関連QOLやSpO2 の有意な改善も認められた2

在宅HFNC療法はこれらのエビデンスを根拠にCOPD限定で保険収載され,2022年4月から国内で行えるようになった.保険診療の適応基準について表1に示す.

表1 在宅HFNC導入基準

在宅HFNC導入時に以下のいずれも満たすCOPDの患者であって,病状が安定し,在宅でのHFNCを行うことが適当と医師が認めたものとする.
呼吸困難,去痰困難,起床時頭痛・頭重感等の自覚症状を有すること.
在宅酸素療法を実施している患者であって,次のいずれかを満たすこと
(イ)在宅酸素療法導入時または導入後に動脈血二酸化炭素分圧 45 mmHg以上 55 mmHg未満の高炭酸ガス血症を認めること.
(ロ)在宅酸素療法導入時または導入後に動脈血二酸化炭素分圧 55 mmHg以上の高炭酸ガス血症を認める患者であって,在宅人工呼吸療法が不適であること.
(ハ)在宅酸素療法導入後に夜間の低換気による低酸素血症を認めること(終夜睡眠ポリグラフィーまたは経皮的動脈血酸素飽和度測定を実施し,経皮的動脈血酸素飽和度が90%以下となる時間が5分間以上持続する場合または全体の10%以上である場合に限る).

2. 在宅HFNC機器:現状と特徴

表2に講演時点の国内で使用可能なHFNCの専用機を示す.それぞれに特徴・優位性に違いがあり,考慮した上で処方が必要である.

表2 在宅HFNC専用機

3. 当院における在宅HFNC導入経験

当院では2022年4月以降,13名の患者に在宅HFNC導入を試みて12名が在宅での使用が可能であった.うち10名が生存しており,そのうち8名がHFNCを継続し,2名はNPPVにstep upした.少ない症例数ではあるが,当院で経験した症例から得られた感触を下に記す(講演中には症例提示したが誌面の都合上割愛する).

・導入基準(イ)の導入症例は1年以上の長期間使用できているケースが多い.

・導入基準(ロ)の導入症例では6ヶ月程度は維持できることが多いが,その後PaCO2 が貯留する傾向があるため注意を要する.

・気道分泌物が多い症例により有効な印象がある.

・目立った合併症なし.

・拘束性胸郭疾患+COPDの病態にはfitしない可能性が高い.

4. 在宅HFNC使用時のリスク管理と課題

合併症はパイロット研究でも軽微なものであった1.HFNCの合併症は大きく3つのジャンルに分かれる.カニューレ関連,フロー関連,温度関連である.

カニューレ関連ではカニューレの皮膚接触部位のびらんや潰瘍などが起こる可能性がある.予防としてはまずは適切なサイズ選択と締めすぎないように装着することである.起きてしまった場合にはHFNCの中断や使用時間短縮やカニューレのサイズ再選択,軟膏等の塗布による対応を行う.

フローの量が合わない場合,不眠や不快感などの原因となることがある.もちろん治療の必要性に応じた設定が重要であるが,不快感を訴える場合にはフローを下げざるを得ない場合がある.この場合カニューレサイズを変更するか,後述する非対称カニューレに切り替えることで対応ができる.

温度は37°C設定が基本であるが,鼻汁や発汗などの原因となることがある.熱線入り回路が体に接していると暑さを訴えることが多いため体から離して設置すると良い.室温や寝具・寝間着などの環境調整を行うことも重要である.様々な調整を行っても37°Cに耐えられない場合にはやむを得ず34°Cまで下げることは認容せざるを得ないこともある.

在宅HFNCの課題としては加湿用の水の問題がある.機器ごとに使用してよい水が異なり,表3に示す.一般的に機器に内蔵されるチャンバータイプは水道水を使用可であり,自動給水バッグは精製水が基本となる.使用する機器によっては精製水の料金を患者が支払う必要があり,負担が生じてしまう.

表3 在宅HFNC 専用機で使用する水

※1 使用条件:毎日水を捨て乾燥・毎週中性洗剤で洗浄・乾燥,損傷・汚れの確認.できなければ煮沸が推奨.

※2 硬度≦100 mg/L

また指導管理料等については当初は指導管理料2,400点,装置加算1,600点,材料加算100点と在宅NPPVの半分以下となっていたが,診療報酬改定により装置加算の上乗せがあった.自動給水チャンバーでは3,500点,その他は2,500点となり,少し明るい兆しである.

5. 在宅HFNCのこれから:適応拡大と課題解決へ

在宅HFNCの今後の展望としては適応拡大と諸問題の解決が挙げられる.国内ではCOPDのみに適応となっているが,HFNCのさまざまな生理学的効果を活かして適応を拡大したいという現場のニーズは大きい.

在宅HFNCには①CO2コントロール,②気道分泌物の除去促進,③在宅での最期の呼吸支援という3つの役割が期待される.①の視点であればCOPD以外の呼吸器疾患や神経筋疾患の一部,②であれば気管支拡張症(肺非結核性抗酸菌症含む)や重症喘息,③ならば間質性肺疾患や疾患問わず終末期医療における呼吸管理デバイスとしての使用が期待される.本稿執筆時点で施設ランダム化比較試験が2つ行われている.呼吸困難を有するPS不良の進行がん患者を対象にした研究(HONEST試験),慢性安定期の気管支拡張症を対象にした研究(FLOBE試験)である.これらの結果に大いに期待したい.

解決すべき問題としてまずNPPVとの使い分け問題がある.II型呼吸不全をLung failureとPump failureに分けて考えると,前者の代表格であるCOPDはHFNCとNPPVの両者を使い分けることができる.しかしそれ以外のLung failureの疾患ではHFNCの適応がないため,COPDの適応基準に準じてNPPVを使用することになるだろう.Pump failureはNPPVが第一選択となる.このように使い分けていく必要がある.

次に非対称カニューレ(OptiflowTM+Duet)の慢性呼吸不全における使用について,である.通常の(対称性)カニューレと比較して換気効率がよく,PEEPが高くかけられる10などの基礎データがある.臨床データは不足しているが,通常のカニューレより呼吸仕事量を減少させ,分時換気量も減ったとするデータ11もある.従来のHFNCより少々性能のよいHFNCと位置付けることができそうだが,慢性呼吸不全における臨床データは本稿執筆時点でもないため,今後研究が必要である.

最後に残された課題として,ガイドラインの整備がある.2023年にデンマーク呼吸器学会が示したガイドライン12表4に示すようにかなり踏み込んだ内容となっている.もちろん今後も検討を重ねていくことが重要ではあるが,将来的にはこのガイドラインのような形に集約されるのではないかと予測される.

表4 デンマーク呼吸器学会ガイドライン

絶対的推奨・年間2回以上増悪する持続的低酸素性COPD患者
・増悪後のHFNCから離脱できないCOPD患者
相対的推奨・持続的な低酸素性呼吸不全を呈する間質性肺疾患患者
・最適化された治療下にもかかわらず繰り返す感染増悪を気管支拡張症患者
・長期NPPVの基準を満たすが,長期NPPVに耐えられない持続的な高炭酸ガス血症を呈する患者

おわりに

本論文の要旨は,第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会のランチョンセミナー「在宅ハイフローセラピー~This is the way.~」の中で講演した.COPDから国内の在宅HFNCが展開している.エビデンスの蓄積により課題が解決し,よりよい在宅呼吸管理デバイスとなるよう心より願って筆を擱く.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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