1995 年 4 巻 3 号 p. 150-155
健康人の体温は生活環境,運動,日差により変動するが,1日の変動は0.6~0.7℃で調節機構が働く.しかし大きな疾病や開腹・開胸術後などで常態変化をきたすとき,体温の恒常性は破綻する.肺理学療法ことにリラクセーションと腹式横隔膜呼吸法を習得した患者はそれまでの冷感,痺れが全身性に温感著明で快適となるため肺理学療法領域,特に呼吸療法における体温変化に着目し,自験例で基礎的実験を行った.臨床例もあわせて測定比較した.結果は中枢深部温,末梢表面温はともに安静リラクセーションと各呼吸パターンにおいて明らかに変化した.深部温は測定部周辺の組織血流量を反映するという1)
鼓膜温,前額部深部温はともに中枢深部温としてそれぞれ視床下部温,肺動脈血温と相関するという2).中枢鼓膜温から乖離していた腹部深部温は腹式呼吸とともに鼓膜温に近づき,上回った.また呼吸法前の安静リラクセーションにおいても,中枢・抹消温度は上向きの傾向をみせた.体温の恒常性回復は全身性病的基底緊張を開放し,呼吸療法はその回復を助ける強力な治療手段であることを確認した.患者による臨床実験でも環境や測定条件の違いから単純比較はできないものの,リラクセーションと呼吸法で中枢・抹消温度の変化は明らかだった.