抄録
セメントなどの建設材料は, 輸送コストが高く, 地場産業として発展してきた。TBT(Technical Barriers to Trade)協定により, セメントの一連の試験規格においては, 国際規格(ISO)を国内規格(JIS)に置き換えた。セメントの品質規格においても, いち早く, 国際規格を必要としたEU各国は, 独自の戦略にしたがい, EU統一規格をISO規格にする動きをみせている。日本の規格は, 業界の企業存続をかけた戦略よりも, むしろ大きな混乱のないものとして, 政府が調達する最低基準のレベルであった。いままで, セメントでは, 工業基礎材料としては, 品質が企業戦略として取り扱われることはなかった。このEN規格成立後, ISO規格原案への自動的な取り扱いであるウィーン協定は, 精緻に積み上げられた企業戦略, しかも国民やユーザーに対しての説明責任を有した対応は, 我が国素材産業としては着目していなかった事項であり, 従来の官主導で解決できる問題でもない。本報告では, これらISO(国際規格)が日本のセメント産業に与えるインパクトと, 今後のわが国としてとるべき対応について考察することとした。この動きは, EUの国家戦略とする見方も確かにあるが, EN規格の根底にある合理性など, 規格としての完成度などを十分考慮しつつ, わが国ユーザー, 製造者, 国民にとって有益な規格にすることが望ましく, 現在俎上のセメント品質規格への我々の取るべき対応について議論した。