日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 103
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発表要旨
諏訪湖・十三湖の結氷解氷記録と冬春季の気候変動(その3)
*平野 淳平三上 岳彦長谷川 直子財城 真寿美福眞 吉美
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キーワード: 十三湖, 解氷記録, 気温復元
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抄録

1.はじめに

 湖の結氷に関する文書記録は, 公式気象観測資料が得られない19世紀以前の冬の気温変動を復元するための資料として活用されてきた.三上・石黒(1998)は, 諏訪湖の結氷日と冬季(12−2月)平均気温に有意な負相関がみられることに着目して, 1444年以降の冬季平均気温を復元した.一方, 湖の解氷日の記録はこれまで発見されていなかった.著者らの研究グループでは, 福眞(2018)によってデジタル化された『弘前藩庁日記ひろひよみ』に青森県十三湖における1705−1860年の結氷, 解氷期日が記録されていることに着目し,この記録をもとに冬春季の気温変動を復元することを試みた.

2.資料と方法

 十三湖の結氷・解氷日の記録は1705−1860年なので,1899年以降の青森地方気象台の観測データとは重複していない.一方,東京では1825—1855年に非公式な気象観測が行われており,気候変動解析に使用されている(Zaiki et al.,2006).1839—1855年の十三湖の結氷・解氷記録と東京の気温観測記録をもとに,結氷・解氷期日と月平均気温との関係を月別に調べた.その結果,2月平均気温と解氷日にr=−0.76(p0.01),3月平均気温と解氷日にr=−0.73(p0.01)の負相関が認められた.また,2−3月平均気温と解氷日の相関係数はr=−0.76(p0.01)であった.一方,結氷日と気温に有意な相関関係が認められた月は無かった.結氷日の変動には,風速など気温以外の条件が関係している可能性があるが,この点については結氷日の天候についてさらに解析を行う予定である.上記の結果をもとに,十三湖の解氷日と東京の冬春季(2−3月)平均気温の関係を表す回帰式を作成し,1705年以降の2−3月平均気温を推定した.

3.結果

 19世紀以前の推定気温は全体として20世紀前半と比べて高く推定された.気温推定式を作成した期間は,1839−1855と短いので,今後,他のプロキシデータとの比較することで,推定結果の信頼性を検証する必要がある.『弘前藩庁日記』には,結氷・解氷日の他に毎日の詳細な天気も記録されている.今後,これらの天候記録を用いた冬季気温変動の復元も行い,復元結果の信頼性について検討をさらに進める.特に,冬季の降雪率(総降水日数に対する降雪日数の割合)は気温の指標になる可能性が高いと考えられるので,『弘前藩庁日記』の降雪率を用いた気温推定も行う予定である.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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