2023 年 38 巻 1 号 p. 86-99
近年,外国からの不当な影響による利益・責務相反や技術流出等への懸念から,研究者の外国との関わりを把握し,リスク管理をしようとする動きが世界的に進行している。しかしこの方法は,研究者による正しい情報の申告を前提とする上,問題把握が技術流出そのものを対象とせず,間接的であることから,十分に有効ではないと考えられる。
本稿では,深刻なサイバー攻撃を経て,大学によるストレージ提供と研究データ管理計画(DMP)の導入により対策をとった豪州大学の事例を参考に,国内で全国大学対象に提供される研究データ基盤(NII RDC,2021年提供開始)を利用した,大学の研究データガバナンス構築の方法を提案する。具体的には,DMPではなく,研究データ管理記録(DMR)を利用することで,機関による研究者の研究活動を把握可能とし,機関の説明責任やコンプライアンスに対応可能とする。NII RDCおよび,これに搭載予定のDMRツールは全国展開されるため,国内の大学は最小限の負担で導入可能,かつ,大学横断的な連携も容易であり,この方式は国際的に見ても優位性がある。
提案の方法は,大学の研究データガバナンス構築を主目的とする。しかし,DMRにより技術流出の把握や調査が可能となるため,研究インテグリティ確保にも一定の有効性はあると考えられる。他方,機関の管理強化による研究者の研究活動の抑制は避ける必要があり,将来的にはDMRが,研究者の未来の研究構想に役立てられることが期待される。