2023 年 38 巻 2 号 p. 198-209
プラスチック汚染は,生態系と社会の双方に大きな影響をもたらす,今や世界的な環境問題となっている。プラスチック汚染の解決に向けた科学的知見には,生分解性プラスチックなどの代替素材やプラスチックごみの流出モデルの開発といった自然科学分野からの技術的アプローチが多く見られる。しかし,プラスチック汚染は大量生産,大量消費,大量廃棄を前提とした現代の社会システムが原因で生じている社会的な問題でもある。こうした問題に対処するためには,技術的な解決策だけではなく,規制や経済的・市場的手段,コミュニティベースの解決策すべてが重要な役割を担っている。すなわち,技術的アプローチだけではなく,人文社会科学からのアプローチを通じて,人々の関心を高め,現代のライフスタイルを改めるとともに,新たな社会の仕組みを作り出さない限り問題の根本的な解決はできない。本稿では,プラスチック汚染の解決に向けて,自然科学の知見も活用しつつ人文社会科学はどのような役割を担いうるのかについて考察する。そして,いくつかの事例をもとに,市民科学はどのようにしてプラスチック汚染に対する人々の意識と行動を変え,新たな社会の仕組みを生み出す社会イノベーションの実現に貢献しうるのか考察する。