研究 技術 計画
Online ISSN : 2432-7123
Print ISSN : 0914-7020
38 巻, 2 号
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巻頭言
  • 原山 優子
    原稿種別: 巻頭言
    2023 年 38 巻 2 号 p. 148-150
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    Our most recent experience with the almost instantaneous spread of ChatGPT around the world, which become an unprecedented social phenomenon, reveals the potential of emerging technologies to generate benefits as well as unpredictable risks through their use, while how profoundly they will be impacting our society remains to be discovered.

    The key question here is "How to guide emerging technologies and innovation to better shape our future society? To address this challenge, this paper emphasizes the need for multi-disciplinary approaches, and advocates for co-creation of innovation with researchers in humanities and social sciences.

    To move ahead in this direction, referring to the experience of the Advisory Board on Artificial Intelligence and Human Society (Cabinet Office), the paper suggests to start with a multi-stakeholder dialogue in view of creating collective intelligence.

特集 人文・社会科学系研究が創造するイノベーション
  • 島岡 未来子
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    In innovation creation, most discussions and projects have been led by technological development based on natural science research. However, this special issue is concerned with the possibility that innovation is also driven and created by the wisdom of social sciences and humanities (SSH) research. SSH research is extremely important in tackling "wicked" problems embedded in complex social systems, and in developing innovations to solve such problems.

    The structure of this special issue is as follows:

    First, the role and function of the University Research Administrator (URA) as a supportive function for innovation created by SSH research is discussed.

    Next, we discuss transformative innovation policy as a theoretical background.

    Then, actual research cases in economics, citizen science, humanities, and industrial-academic collaborations are presented.

    Finally, as an advanced case study, a discussion of the support provided by the U.K. government and the U.K. academic research community is presented.

  • 島岡 未来子, 稲石 奈津子, 森本 行人, 三田 香織, 川人 よし恵, 丸山 浩平
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 155-169
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    本稿は,国内の大学に勤務する人文社会科学系のURAを主とする共同執筆である。各人が取り組んだ,人社系研究にかかるイノベーションと考えられる具体的な事例を持ち寄り,その事例における「URAの役割・機能」を軸に記述した。導入として現在のわが国のイノベーション政策とURAの機能と役割を概観する。次に京都大学,筑波大学,大阪大学,早稲田大学の4大学における事例とURAの役割を述べる。最後に4事例とURAの役割と機能をまとめる。事例から,URAは,バウンダリー・スパナー,基準作り,統合的価値創造,といった言葉が示すとおり,単なる研究支援を超え,より積極的に人社系研究によるイノベーション創造に関与していることが分かった。そこで,事例で示されたURAの役割と機能を,意図的に変化,あるいはイノベーションを組織にもたらそうとする人である,「チェンジ・エージェント」の概念から整理する。本稿の事例では,人文社会科学系研究によるイノベーション創出活動において,URAは(1)カタリスト,(2)プロセス支援者,(3)資源連結者の3機能を担っていることが示唆された。

  • ─方向性,参加,再帰性
    吉澤 剛
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 170-186
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    トランスフォーマティブ・イノベーション政策とは,多様なアクターと新しい社会実践を取り込んで社会の変革を促すことに焦点を当てるものであり,現在主流のイノベーション政策に欠けている目的意識と方向性を持つ。望ましい社会的・環境的な方向へと戦略的にシフトするイノベーション政策の規範的転回は,サステナビリティ・トランジションやディープ・トランジションという長期的・横断的・根本的な変革プロセスと概念的に同調する。なお,「トランジション」がどのように社会技術システムを変化させるかというプロセスを重視するのに対して,「トランスフォーメーション」は変化する方向性そのものが焦点となり,何が変化の創発パターンであるかに注目する。後者は必ずしもシステム的な変化ばかりでなく,個人の動機や価値とともに,人間以外のアクターを含むより幅広い主体の参加や関係性を重視する。しかし,多様な参加は合意形成や意思決定を難しくし,人間以外のアクターも内生的な要因として関わるため,イノベーションの方向性は人間の規範的な意識によってのみ決められるわけではない。そこで求められるのはモニタリングや評価といったシステムの再帰性ばかりでなく,アクター自身の認識や態度,行為を改めるという個人の再帰性であり,人文・社会科学者もイノベーションの創造に向けて積極的な役割へと自らを変革させていくことが期待される。

  • 森村 将平, 有村 俊秀
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 187-197
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    環境研究総合推進費(JPMEERF20202008)「暗示的炭素価格を踏まえたカーボンプライシングの制度設計:効率性と地域経済間の公平性を目指して」では,暗示的炭素価格を踏まえた上で,効率性と公平性を考慮したカーボンプライシング(排出量取引や炭素税等)を理論的,定量的に分析してきた。研究を通じて,排出量取引の効果・影響を定量的,統計的に検証した。その結果,排出量取引の実施による削減効果,スピルオーバー効果(規制対象外の事業所でのCO2排出削減が起こること)や,東京都のビルにおける省エネルギー技術の普及が確認できたことは,気候変動問題の解決へ向けたイノベーションの広がりを確認できた例といえる。また,自治体の排出量取引が企業の研究開発の促進につながることも示された。一方で,研究を進めるにあたっての困難も多くあり,統計データにおける事業所と企業の情報の紐づけ,因果推定におけるより自然実験に近い状況での検証,イノベーションの計測といった課題もあった。このような課題を乗り越えながら,理工学による技術開発とも協力しつつ,イノベーションをどう波及させるかを検討していくことこそが,経済学の視点からみた「人文・社会科学系研究が創造するイノベーション」への最初の一歩といえるだろう。

  • ―市民科学が生み出す社会イノベーション
    原田 禎夫
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 198-209
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    プラスチック汚染は,生態系と社会の双方に大きな影響をもたらす,今や世界的な環境問題となっている。プラスチック汚染の解決に向けた科学的知見には,生分解性プラスチックなどの代替素材やプラスチックごみの流出モデルの開発といった自然科学分野からの技術的アプローチが多く見られる。しかし,プラスチック汚染は大量生産,大量消費,大量廃棄を前提とした現代の社会システムが原因で生じている社会的な問題でもある。こうした問題に対処するためには,技術的な解決策だけではなく,規制や経済的・市場的手段,コミュニティベースの解決策すべてが重要な役割を担っている。すなわち,技術的アプローチだけではなく,人文社会科学からのアプローチを通じて,人々の関心を高め,現代のライフスタイルを改めるとともに,新たな社会の仕組みを作り出さない限り問題の根本的な解決はできない。本稿では,プラスチック汚染の解決に向けて,自然科学の知見も活用しつつ人文社会科学はどのような役割を担いうるのかについて考察する。そして,いくつかの事例をもとに,市民科学はどのようにしてプラスチック汚染に対する人々の意識と行動を変え,新たな社会の仕組みを生み出す社会イノベーションの実現に貢献しうるのか考察する。

  • 熊谷 誠慈
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 210-218
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    著者は元来,ヒマラヤ地域の希少古文書の未踏研究を進めるがあまりに社会との接点もほとんどなく,研究成果を世間に直接的に役立てることができていなかった。いわゆる「新奇的だが役に立たない未踏研究」を行ってきた。しかし,様々な取り組みを進めるなか,状況次第で「新奇的だが役に立たない未踏研究」を,「新奇的で世の役に立つ未踏研究」へと変容させられる可能性があることが判明した。その変容に関して著者が経験,実践したのは以下の3つの形式であった。

    ①世の情勢が変化して価値が高まるのを受動的に待ち続ける。

    ②世間における認知度を高めて興味を持ってもらえるよう能動的にプロモーション活動を行う。

    ③科学技術と融合させることでインパクトのあるプロダクトやサービスを創出する。

    本稿では,著者が体験した事例をもとに,しばしば「不要」と見做されがちな人文学の未踏研究の意義を高めていくための仕掛けや,仏教対話AI「ブッダボット」や仏教版メタバース「テラバース構想」など,産宗学連携による文理融合型研究開発の事例を紹介する。

  • ~日立京大ラボの挑戦~
    嶺 竜治
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 219-231
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    2016年に京都大学と日立製作所によって設立された日立京大ラボは,主に人文・社会科学系の「知」の協創に係る共同研究部門であり,「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」をテーマとして,京都大学のさまざまな学術分野の有識者・研究者,学生などと連携しながら新たなイノベーションを創生することをめざしている。具体的には,「2050年の社会課題と,その解決に向けた大学と企業の社会的価値提言」と「人や文化に学ぶ社会システム」の2つのテーマを推進している。その根底にあるのは,「ヒトが人であるがゆえに起きる社会課題」,つまり,そもそも人は合理的な生き物ではなく,それゆえに生じる課題を探究するべきであるという考えである。そのうえで,これまでの最適化や効率化をめざしていた社会システムにおいては,おもてに出てきにくかった実際に社会で生活している人に焦点を当て,人は自然・風土・文化の中ではぐくまれ,自然や社会と共に扶け合って生きているという全体論的価値観の重要性を念頭に置きながら,新たな社会システムの研究を進めている。本稿では,日立京大ラボの概要を述べた後,人文・社会科学系の産学連携の類型化と関連する日立京大ラボの具体的な活動を対応付けて振り返り,最後に今後の産学連携の在り方について私見を述べる。

  • 小林 直人
    原稿種別: 特集
    2023 年 38 巻 2 号 p. 232-247
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル 認証あり

    本論文は,英国の学術研究界における人文・社会科学系研究がどのようにイノベーションに繋がる可能性があるのかを調査・検討した結果を報告する。内容は大きく二つに分かれており,最初は英国におけるUKRI(UK Research and Innovation)に所属する二つの研究会議AHRC(Arts and Humanities Research Council)とESRC(Economic and Social Research Council),およびBA(British Academy)がイノベーションに向けてこの研究分野でどのような研究助成をしているかを多くの事例を元に述べる。次に英国大学の研究評価REF(Research Excellence Framework)の中の重要な評価項目インパクト(経済・社会等への影響)のこの分野における事例を紹介して,それらがどのようなイノベーションに繋がる可能性があるかを述べる。そして全体として英国政府や英国学術研究界が人文・社会科学系においてもイノベーション創出の可能性を積極的に支援している現状を紹介する。

研究ノート
  • ―タイ拠点に着目した国際特許出願データ分析―
    近藤 正幸
    原稿種別: 研究ノート
    2023 年 38 巻 2 号 p. 248-260
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    本論文では,グローバル・イノベーション・ネットワークを3つの特色を有して分析を行っている。1つは,特定の海外拠点に着目して本国を含め各拠点がどのようなネットワークの形態になっているかを分析するという新たに提案された分析枠組みを用いている点である。具体的には,タイに着目している。これによりグローバル・イノベーションのネットワークの形態が比較的簡易に観察可能になる。2つ目は,アンケート調査データなどではなく信頼性が高くバイアスがないと考えられる国際機関の業務データデータベースを用いた定量分析を行っている点である。3つ目は,日本企業,ドイツ企業,米国企業のグローバル・イノベーション・ネットワークの形態が相互に異なるというファクト・ファインディングをした点である。つまり,日本企業の場合は「本国とタイ現地の連携」が最頻であり,米国企業の場合は多様な形態が認められるが「タイ現地単独」が最頻であり,ドイツ企業については「本国とタイ現地に加え第3国を含む連携」と「本国とタイ現地の連携」が最頻であった。

ポリシーレポート
  • ―科学技術・イノベーション基本計画に見る人材政策の変化―
    星野 利彦, 齋藤 経史, 川村 真理
    原稿種別: ポリシーレポート
    2023 年 38 巻 2 号 p. 261-272
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    日本における博士人材を取り巻く状況は,博士課程在籍者に対する経済支援の不足,博士課程修了者のキャリアパスの不透明さや不安定な雇用環境などから,優秀な修士課程在籍者が博士課程への進学を忌避しているとの指摘がある。例えば,今や博士課程進学者の半数近くが社会人経験者となっており,こうした博士課程在籍者の変化を踏まえた施策も充実させる余地があると考えられる。

    本稿では,日本における博士人材に関する政策の背景や経緯について全体を俯瞰しつつ解説し,特に第6期基本計画に「高度な問題解決能力を身に付けた」「時代の要請に応じた「知」のグローバルリーダー」と形容される博士人材に関する政策やその後の新たな展開の方向性について展望する。

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