2023 年 38 巻 2 号 p. 210-218
著者は元来,ヒマラヤ地域の希少古文書の未踏研究を進めるがあまりに社会との接点もほとんどなく,研究成果を世間に直接的に役立てることができていなかった。いわゆる「新奇的だが役に立たない未踏研究」を行ってきた。しかし,様々な取り組みを進めるなか,状況次第で「新奇的だが役に立たない未踏研究」を,「新奇的で世の役に立つ未踏研究」へと変容させられる可能性があることが判明した。その変容に関して著者が経験,実践したのは以下の3つの形式であった。
①世の情勢が変化して価値が高まるのを受動的に待ち続ける。
②世間における認知度を高めて興味を持ってもらえるよう能動的にプロモーション活動を行う。
③科学技術と融合させることでインパクトのあるプロダクトやサービスを創出する。
本稿では,著者が体験した事例をもとに,しばしば「不要」と見做されがちな人文学の未踏研究の意義を高めていくための仕掛けや,仏教対話AI「ブッダボット」や仏教版メタバース「テラバース構想」など,産宗学連携による文理融合型研究開発の事例を紹介する。