2023 年 38 巻 3 号 p. 340-353
本稿では,我が国の研究開発租税優遇措置の概要や主要国における措置の状況を概観したうえで,筆者らが参加したOECD microBeRDプロジェクトの分析結果を紹介する。OECD microBeRDプロジェクトでは,各国の研究開発統計や税額控除データに基づくクロスカントリー分析を行っており,研究開発租税優遇措置や直接的政府資金配分が企業の研究開発投資にどのような影響を及ぼすかを分析している。分析結果から,研究開発支出額に係る限界費用(B-Index)が減少するほど,社内研究開発支出額が増加することが分かった。ただし,その限界効果は企業規模階級によって異なっており,小規模企業では効果が弾力的である一方,大規模企業では効果が非弾力的であった。また,社内研究開発支出額が増加したメカニズムを検証したところ,研究開発従事者数(頭数基準)の増加が関係しており,研究開発従事者の賃金水準が上昇するためではないことが分かった。さらに,社内研究開発支出額に与える効果について,研究開発租税優遇措置と直接的政府資金配分を比較した分析では,研究開発租税優遇措置の効果のほうが大きいことを示した。