2024 年 39 巻 2 号 p. 141-148
イノベーション・エコシステムについて,ITやソフトウエアの分野では米国シリコンバレーを中心として発展してきた。一方で,DX,すなわち旧来の社会システムをデジタルで変革しようとしたとき,社会システムを形成する人間の活動や知見などのOTをITで変革する取り組みであるため,イノベーション・エコシステムのプレーヤーや仕組みが他の技術分野とは異なる特徴を有しているように思われる。
本稿では,米国西海岸のシリコンバレーや東海岸のボストンにおけるイノベーション・エコシステムの変遷を振り返り,技術の萌芽だけでなく,地域に根差した風土,民間からの継続的な支援,そして国家戦略による大きなスキームなどがイノベーション・エコシステムの形成に関与していることを述べる。
そして,このアナロジーで自動車産業の集積地である中西部をみたとき,現地はOTの集積地であることから,DXを事業として成長したいコンサルティングハウスやITベンダが積極的な投資を行い,IRA法などの国家戦略やCESMIIなど政府系団体がその動きを加速しようとしていることから,中西部はDXに関するイノベーション・エコシステム形成の初期段階にあることを考察する。更に実際にその現場を観察し,イノベーション・エコシステム形成には,ステークホルダそれぞれのオープン/クローズ戦略に関わるインセンティブ設計が上手く機能することも要件であることを考察する。