2024 年 39 巻 2 号 p. 216-223
農業,特に稲作は古代からの伝統的な産業であり,その伝統ゆえにイノベーションが比較的起こりにくい分野であった。その中で,新しい高密度育苗田植技術「密苗」は,農業者の発想を農機具メーカーや公的研究機関を巻き込んで三位一体で実現・普及し,日本の稲作に大きな影響を与えた。本稿では,農業イノベーションの事例である「密苗」の開発・実証・普及の経緯を説明するとともに,技術経営およびイノベーションマネジメントの視点から成功に至った要因を考察する。また,農業分野の技術経営の必要性と普及についても述べる。