本研究の目的は,個人の時間選好が組織的意思決定のプロセスに及ぼす影響を明らかにすることである。人間は限定合理性を回避するため,組織で意思決定を行うが,組織でも不合理な意思決定は繰り返されている。近年,行動経済学では個人のアノマリを説明する理論が提唱され発展しているが,そのひとつである双曲割引は近い将来から遠い将来にかけて低減する傾向を持つ主観的時間割引率から,長期的な効用を犠牲に短期的な効用を選好する一貫性のない人間の行動を説明する。本稿ではあいまいな状況下での集団の意思決定モデルであるゴミ箱モデルを拡張したDouble Garbage Can Modelを構築し,双曲割引を持つ個人の存在が組織的な意思決定に及ぼす影響をシミュレートした。その結果,双曲割引から目先の利益を優先する組織的意思決定をもたらしうる負の影響が示唆される一方,最も回避すべき何も決められない状況を回避できるなど正の影響も示唆された。