2024 年 39 巻 3 号 p. 308-321
本稿は,デジタルヒューマニティーズ(DH)の日本の状況について,その歴史を踏まえつつ述べるものである。DH分野は,第6期科学技術・イノベーション計画において「総合知」を実現させる一つの可能性として注目されている。本稿では,DHが日本に根付いた過程を振り返り,DHの現在と未来の可能性について考察する。1990年代前半には,人文学に情報学が応用される動きが見られ,いくつかの研究機関でデータベース構築が進められていた。また,いくつかのDHに関係する学会が立ちあがろうとしていた。当時の関係者のコメントから,共有方法や学際性,国際性の利点が指摘され,現在とも共通する課題が見える。その後,2000年代には総務省の旗振りのもと,デジタルアーカイブブームがあったが,人文学の資料や成果のデジタル化については,個別のプロジェクト提案があったのみで,当時,政府の支援は多くなかった。この状況が変わったのは,「総合知」の概念が登場してからである。文部科学省でも情報技術の活用が議論され,人文学振興施策にも取り込まれた。1990年代の萌芽と関連する文脈も見られる。また,総合知の提案後にはDH講座が大学に増えている。人文学の振興施策の中には,これらを総体的に把握しようとする流れも存在している。そのような状況を踏まえつつ,DHの発展を3つの類型に整理し,今後の展望を述べた。