2025 年 39 巻 4 号 p. 410-430
日本は世界有数の新薬創出国でありながら,近年その創薬力の低下が指摘されるようになった。日本には,スター・サイエンティスト,大手製薬企業,ベンチャー・キャピタル,行政など,新薬創出に必要なプレーヤーが存在しているが,そのプレーヤー同士が連携するエコシステムが形成されていない。この問題に対処するために,政府は2023年12月,内閣官房に「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」を設置した。筆者はこの構成員の一人として,イノベーションやエコシステムの専門家の立場から,議論の取りまとめに関与した。本稿では,この構想会議の経験に基づいて,筆者が携わってきた「スター・サイエンティスト」に関する研究成果を中核として位置付けながら,学術的な知見を統合する形で,日本の創薬エコシステムの課題と処方箋を整理することを目的としている。本稿では,まず創薬エコシステムが必要となった背景や,創薬とエコシステムに関する先行研究の整理を行う。次に,日本の創薬エコシステムの現状の課題を整理する。その上で,イノベーション政策の観点から,創薬エコシステムの好循環を促進するための施策として,「アイディアの実装のためのアクセラレーターの設立」と「イノベーター・リワードとしてのバウチャーの導入」を提案する。