2025 年 40 巻 1 号 p. 5-21
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では,日本の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき,体系的に把握するための基礎資料として「科学技術指標」を毎年公表している。その中でも,特に政策文書やメディア等で取り上げられる指標として,「注目度の高い論文(Top10%論文)」がある。しかし,中国やグローバルサウス諸国の台頭に伴い,この「注目度の高い論文」の指標としての意味が過去と比べて変化して来ている。また,「注目度の高い論文」は,研究力の一側面だけを表すものであり,日本の研究力の全てを表すものではない。これに加えて,アウトプットはある時点の研究活動の結果を示したスナップショットであり,望ましい研究成果を今後も生み出す能力を反映しているとは限らない。特に,日本の研究力向上という未来を論じる文脈では,研究力も未来の能力を示唆するものである必要がある。
本稿では,「注目度の高い論文」の意味の変化について前半で紹介し,後半では,インプット指標からアウトプット指標に至る研究活動のプロセスの理解に向けて,NISTEPが実施している「研究活動把握データベースを用いた研究活動の実態把握(研究室パネル調査)」の取組を紹介する。これらを通じて,論文指標の課題と研究力にかかわる新しい指標群の整理・提案を行う。