2025 年 40 巻 1 号 p. 22-37
本論文では,日本の研究力を研究エコシステムの持続可能性とダイナミクスの視点から再考する。研究力の問題は,過去10年間にわたり議論され,政府も「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」などの政策を打ち出してきたが,いまだ改善には至っていない。本稿では,第一に,研究エコシステムの持続性の観点から,若手研究者の雇用状況や研究時間の推移に関するデータを改めて確認し,問題構造を検討する。特に,教員数の減少は国立大学に特徴的な傾向であり,また,ポストドクトラルフェローの増加など実質的な若手人材の雇用資金は公的支出されているにかかわらず,不安定雇用制度が研究人材の持続的確保を困難にしていることを指摘する。また,研究時間の減少について,外部資金獲得の有無にかかわらず研究以外の業務の軽減が行われずに最適化がなされておらず,総経済コストの導入など,運営費交付金の削減と競争的資金の増加といったバランスシフトに即した制度設計が必要である。さらに研究官僚主義が海外でも問題視されており,科学システムと監査文化の再検討が望まれる。第二に,研究システムのダイナミクスとして,過去の卓越研究拠点政策(グローバルCOEプログラム)が,地域大学等の特定研究分野の持続的成長につながってこなかったこと,一方,共同利用・共同研究拠点などの研究拠点が安定的に存在すれば,他研究組織にも資する効果を有することを指摘する。