研究 技術 計画
Online ISSN : 2432-7123
Print ISSN : 0914-7020
最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
巻頭言
  • 富澤 宏之
    原稿種別: 巻頭言
    2025 年 40 巻 1 号 p. 2-4
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    More than ten years have already passed since the issue of Japan's "stagnating research performance" became a serious policy issue, and various analyses have been carried out to clarify, to some extent, what the factors are. However, the causal relationship has not yet been fully elucidated.

    In thinking about causality, there is a tendency towards an "availability bias", whereby we jump to the factors that come immediately to mind. For example, it used to be almost universally accepted that the national university reform in 2004 was the cause of Japan's ‘research performance stagnation'. However, subsequent analysis suggests that there are other factors and complex causal relationships, and a simple ‘university-reform causation theory' is no longer sufficient.

    In considering more essential factors, it is also necessary to consider causal chains. For example, statistical data for the last 20 years or so suggest that the decrease in research time of university faculties has had a negative impact on research performance. However, it is natural to assume that the decline in research time of university faculties is itself a phenomenon caused by some other factor, and as such, more fundamental factors should be questioned.

    Another challenge is how to deal with causal relationships that have not been adequately tested. Such relationships are often used as ‘evidence' in policy-making processes, and caution is needed to avoid the adoption of flawed policies. However, policy researchers are often too cautious in stating causal relationships and remain narrow-minded. It may be important to consider causal relationships, even if they are hypothetical.

    The issue of Japan's ‘research capacity stagnation' is complex and our understanding of it is far from complete. I hope that the special features in this issue will stimulate discussion within the Japanese science and technology policy community.

特集 いま「研究力」をどう捉えるか―エビデンスをめぐる多様な視点
  • 村上 昭義, 伊神 正貫
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 5-21
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では,日本の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき,体系的に把握するための基礎資料として「科学技術指標」を毎年公表している。その中でも,特に政策文書やメディア等で取り上げられる指標として,「注目度の高い論文(Top10%論文)」がある。しかし,中国やグローバルサウス諸国の台頭に伴い,この「注目度の高い論文」の指標としての意味が過去と比べて変化して来ている。また,「注目度の高い論文」は,研究力の一側面だけを表すものであり,日本の研究力の全てを表すものではない。これに加えて,アウトプットはある時点の研究活動の結果を示したスナップショットであり,望ましい研究成果を今後も生み出す能力を反映しているとは限らない。特に,日本の研究力向上という未来を論じる文脈では,研究力も未来の能力を示唆するものである必要がある。

    本稿では,「注目度の高い論文」の意味の変化について前半で紹介し,後半では,インプット指標からアウトプット指標に至る研究活動のプロセスの理解に向けて,NISTEPが実施している「研究活動把握データベースを用いた研究活動の実態把握(研究室パネル調査)」の取組を紹介する。これらを通じて,論文指標の課題と研究力にかかわる新しい指標群の整理・提案を行う。

  • 林 隆之
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 22-37
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    本論文では,日本の研究力を研究エコシステムの持続可能性とダイナミクスの視点から再考する。研究力の問題は,過去10年間にわたり議論され,政府も「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」などの政策を打ち出してきたが,いまだ改善には至っていない。本稿では,第一に,研究エコシステムの持続性の観点から,若手研究者の雇用状況や研究時間の推移に関するデータを改めて確認し,問題構造を検討する。特に,教員数の減少は国立大学に特徴的な傾向であり,また,ポストドクトラルフェローの増加など実質的な若手人材の雇用資金は公的支出されているにかかわらず,不安定雇用制度が研究人材の持続的確保を困難にしていることを指摘する。また,研究時間の減少について,外部資金獲得の有無にかかわらず研究以外の業務の軽減が行われずに最適化がなされておらず,総経済コストの導入など,運営費交付金の削減と競争的資金の増加といったバランスシフトに即した制度設計が必要である。さらに研究官僚主義が海外でも問題視されており,科学システムと監査文化の再検討が望まれる。第二に,研究システムのダイナミクスとして,過去の卓越研究拠点政策(グローバルCOEプログラム)が,地域大学等の特定研究分野の持続的成長につながってこなかったこと,一方,共同利用・共同研究拠点などの研究拠点が安定的に存在すれば,他研究組織にも資する効果を有することを指摘する。

  • 七丈 直弘
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 38-49
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    本論文は,科学技術・イノベーション政策におけるEBPMの重要性が増す中,EBPMを支える研究データ基盤の役割と課題を多角的に分析し,今後の発展方向を提示する。研究データ基盤がEBPMのコンテキスト-メカニズム-アウトカム連鎖を支援する中核的要素と定義し,国際比較分析,事例研究,方法論的・批判的分析を通じて包括的に考察する。

    国際比較分析では,米国,EU,韓国との比較から,日本の課題として制度的基盤強化,研究データ基盤の統合・高度化,専門人材育成,政策プロセスへのEBPM体系的導入を指摘した。e-CSTI等の事例研究は,研究データ基盤の政策立案への貢献可能性を示す一方,評価指標偏重等の課題も提示した。方法論的考察ではデータ信頼性と因果推論の課題を,批判的分析ではデータ偏重主義や政治利用のリスクを検討した。

    公共政策学,情報科学,科学社会学等の学際的視点から分野横断的知見の統合の必要性を強調し,社会技術システム論を用いて両者の共進化プロセスを展望した。結論として,研究データ基盤とEBPMは政策の質的向上と科学・社会の新たな関係構築に貢献するが,学際的アプローチと国際協調で課題に取り組み,研究者の自律性を尊重する柔軟な政策枠組みの構築が求められる。

  • 遠藤 悟
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 50-72
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    日本の文献データを指標とした研究力の低下傾向が指摘されている。そのため本稿においては,その改善に向けた取り組みについて海外事例を参照し考察した。日本においては,2004年の国立大学の法人化以降,特に研究力の低下が著しいと言われているが,本稿においては,国立大学を中心とした2000年代初頭以降のScopus収録文献データや財務データを参照しその変化を分析し日本の課題を明らかにした。また,米国,ドイツ,英国,イタリア,カナダ,オーストラリアの関連するデータを参照した上で,各国の大学に対する公的資金配分メカニズムについて調査分析を行うとともに,それらの日本の研究力の強化に向けたエビデンスとしての有効性についても検討を加えた。検討は,(1)研究資金の規模と財源,(2)大学間・分野間の格差,(2)公的資金配分のメカニズム,(4)研究力強化の誘因としての研究評価,の諸点において行い,今後の改善の方向性として以下を挙げた:(1)研究活動における公的資金の重要性の認識と,改善のエビデンスとなる財務情報の整備,(2)研究大学の層が薄いという現状を改善するための資金配分メカニズムの整備と,分野別の格差の問題への対応,(3)基盤的資金と競争的研究資金の関係についての再検討,(4)運営費交付金の配分における評価の,単年度および中期目標期間の双方における再検討

  • 佐藤 靖, 松尾 敬子, 菊地 乃依瑠
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 73-86
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    近年の我が国における研究力低下の要因をめぐってはこれまでさまざまな議論がなされてきたが,今世紀に入って次々と創設されてきた大型の資金配分事業が我が国の研究力にいかなる影響を及ぼしてきたかも重要な論点と考えられる。科学技術・イノベーション(STI)政策分野の過去の大型事業に関する評価や分析はこれまでも一定程度行われてきた。しかし,我が国の研究力強化という観点からみたときにそれらの大型事業がどういった流れで展開されてきたかは検討されていない。本稿では,STI分野の大型事業の目的や性格が全体として過去25年の間どのように変容してきたのかを検討する。まず,各事業を主要な政策目的に沿って「大学院COE系」「組織改革系」「国家プロジェクト系」「産学連携系」の4つの系統に分類し,それらの長期的な傾向を捉える。つづいて,各事業の公募要項や中間・事後評価要項等を体系的に参照しつつ,大型事業の形態や性格がこれまで全体としてどう変化してきたかを論じる。さらに,各事業のプログラムレベルでの事後・追跡評価の報告書等を参照しつつ,これまでの大型事業の実施状況や成果をどのように評価できるかを議論する。最後に,こうした検討を踏まえ,エビデンスに基づく大型事業の実施に向け,今後は大型事業の政策目的および評価軸の多元性を認識したうえでそれをいかに適切に設計するかが重要な論点として残されていることを指摘する。

  • 長谷川 克也
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 87-97
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    近年,イノベーションの担い手としてスタートアップ企業が重要な役割を果たすようになり,特に大学発スタートアップに期待が集まっている。イノベーションの担い手が大企業からスタートアップや大学にシフトしてきたアメリカの歴史を,日本は歩み始めたところだが,アメリカの大学は,民間での研究開発が大企業からスタートアップに大きくシフトした中でも,その研究力を基礎研究から応用研究にシフトさせたわけではない。

    我が国の大学の研究力低下は,直近の産業競争力低下の原因としてではなく,数十年後のイノベーションのタネの減少という意味で大きな問題である。研究力低下の原因は種々論じられているが,その原因は結局のところ大学の財政基盤の脆弱さに帰結すると考えられる。この数十年の間に日米の大学の財政規模は大きな差が付いたが,アメリカの大学の財政はスタートアップを成功させた起業家からの寄附を基盤とする基金運用収入の伸びに支えられている。全米の大学における研究費の出所を分析すると,研究費の最大の提供者は連邦政府であり続けるものの,産学連携収入は大学が財源として依存できるには程遠い規模の小ささでしかなく,大学が新産業の創出に貢献したことに対する経済的なリターンは,成功した起業家による数十年後の寄附という形で実現されていることがわかる。

  • 高橋 真木子, 矢吹 命大
    原稿種別: 特集
    2025 年 40 巻 1 号 p. 98-107
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    近年,オープンイノベーションや社会課題解決への貢献が大学に求められる中,研究力強化を支える専門人材であるリサーチ・アドミニストレーター(URA)の役割が重要視されている。本稿では,URAの機能と評価の在り方について考察する。

    日本では現在,約1,800名を超える実務者が活動しているが,その機能・活動の評価指標は未だ確立されていない。本稿では,まず日本のURAの現状を国際比較の視点から概観し,URAの雇用による産学連携の促進,外部研究資金の増加等の効果を定量的に示した分析事例を紹介する。さらに,スタートアップ支援,オープンサイエンス推進,研究倫理対応などURAの機能の多様化の現状や,総合知推進を背景にURAの果たす役割の重要度が高まってきている状況を示す。

    その上で,ますます多様化するURAの機能の評価について,境界を越えた連携を支援する「バウンダリー・スパニング」の概念を整理の枠組みとして提案する。また,URAの機能は成果として可視化されにくいという課題があり,定量・定性的評価の充実が求められることを指摘する。

    本稿は,URAの機能を多角的に分析し,研究力強化におけるその意義を明らかにするものである。それにより,日本の研究力強化に向けた各種取り組みをEBPMに基づいて進めていくために,URAの適切な評価指標の確立が不可欠であることを論じる。

研究論文
  • 渕上 ゆかり, 杉田 菜穂, 原 圭史郎, 上須 道徳
    原稿種別: 研究論文
    2025 年 40 巻 1 号 p. 108-126
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    本研究は,規模と形態の異なる3大学に所属する大学教員を対象に行われたアンケート調査結果を基に,学際研究の実施を促進する要因を明らかにするものである。個人が複数分野を用いて実施する研究体制を「個人の学際志向」,複数分野の研究者が共同研究として実施する研究体制を「多専門共同研究」と定義し,学際研究に繋がる研究体制であるとする。統計解析を行った結果,研究者個々の「専門分野」,「研究手法」,「研究関心」の選択は,選択肢および選択数によって「個人の学際志向」と「多専門共同研究経験」に影響を与えるものがあることが明らかになった。また,多専門共同研究における親和性の高い分野の組み合わせは様々であり,さらに他分野との学際研究を希望する分野(選択側)もあれば,希望される側の分野(被選択側)もあることから,被選択側の分野が自身の需要を認識することも学際研究の実施促進において重要である。

  • 北口 貴史, 内平 直志
    原稿種別: 研究論文
    2025 年 40 巻 1 号 p. 127-140
    発行日: 2025/05/13
    公開日: 2025/05/14
    ジャーナル フリー

    イノベーションによる新事業の創出は重要ではあるが,一般には既存事業を重視しがちであり十分に新規事業へ投資されない可能性は高い。近年,既存事業の維持/拡大のための深化と,新規事業の創出のための探索を両立する両利きの経営が注目されている。本研究は,様々な条件下での企業パフォーマンスの推移をシミュレーションで可視化できるよう,両利きの経営の本質的な構造(探索活動と深化活動に対するリソース配分)をモデル化することを目的とする。両利きの経営の構造のモデル化に関する先行研究はいくつかある。しかし,既存事業から新規事業への遷移を表現できず,組織が両利きの経営を実現するアプローチの違いも考慮されていない。本研究では,企業内の顧客に対する知識と技術に対する知識を深化と探索の両面で表現するEEマトリクスを用い,既存事業から新規事業への移行過程を考慮してその構造をモデル化した。また,有識者へのインタビューで本構造モデルが有効であることを確認した。本研究の理論的貢献は,両利きの経営の文脈的アプローチと構造的アプローチの企業パフォーマンスへの影響と,両アプローチの相補的運用が企業パフォーマンスを向上させることをシミュレーションで示すことができたことである。本研究の実務的貢献は,両利きの経営の構造が明らかになることで,経営現場におけるイノベーション課題の議論に対する洞察を提供できることである。

編集後記
feedback
Top