2025 年 40 巻 2 号 p. 191-207
我が国では,南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの巨大災害が発生する可能性が指摘されている。これまで大学や研究機関,民間企業等において,防災・減災に関する調査研究が進められてきた。しかしながら,実被災地における科学技術の活用は発展途上の段階にあるといえる。他方,国内外では科学技術の活用に向けた変革が進行している。このような状況において,被災地の実態を考慮すると,科学技術の進展と被災地の現実との間には乖離があるのではないかと推察される。本研究では,被災地における社会課題解決を目指した科学技術の活用事例に着目し,科学技術の活用を進める上で必要な要素を明確化することを目的とする。具体的には,安全・安心な社会の実現に対して実践的に貢献した取り組みを表彰する電子情報通信学会 安全・安心な生活とICT研究会における「安全・安心ベストプラクティス賞」過去受賞者を対象とした本研究で提案する手法に基づき,被災地における科学技術の活用に関する実態と課題について探索的に分析する。さらには,上記の探索的分析結果を踏まえつつ,令和6年能登半島地震の被災自治体である氷見市で実施された住家被害認定業務の実行担当者を対象とした本研究で提案する手法に基づき,最新の被災地における科学技術の活用に関する現状と課題についても探索的に分析する。また被災地において科学技術の活用を進めている現場から見えている新たな課題についても整理する。