2026 年 41 巻 1 号 p. 66-73
知識は,企業における技術力の維持・向上やイノベーションに繋がる重要な経営リソースである。その中で,実践から得られる経験知は貴重である。プロジェクト型組織でビジネスを行なっているIT(情報技術)業界では,短いサイクルで技術が変化してきたことから,SE(システムエンジニアリング)職の有益な経験知の大半は,ベテラン個人に内在したままとなっている。組織的には暗黙知となっていることから,ベテランの退職と共に組織から消失するリスクがある。したがって,有益な経験知を選別して次世代層に移転し,組織として継承することは重要な経営課題である。DX(デジタル変革)やAI(第三次人工知能ブーム)にも有益な経験知とは何かを識別し,少子高齢化社会に相応しい継承方法をあらためて明らかにする必要がある。その起点は,知識を伝える側ではなく,受け取る側の観点で取り組むべきと考える。筆者はこのテーマに関する研究者として,両者の意見の対比を試みた。その結果からは,短いサイクルで技術が変化している職種においては,ベテラン層と協業しながら次世代層がオンデマンドで経験知を受け取る「知の協創」によって継承する方法も選択肢であることを研究書にまとめた。本稿はその概要をご紹介するとともに,表出化が難しい経験知(暗黙知)をコード化する方策を考察する。