2026 年 41 巻 1 号 p. 59-65
本稿は,ファミリービジネスにおける「伝統」は革新の足かせなのか,それとも武器となり得るのかという問いに対し,伝統と革新の統合プロセスを検討する。伝統を,世代を超えて継承される知識資産として捉え,その扱い方次第で革新を促進も抑制もする二面性を整理したうえで,伝統を動態的資源として活用する二つのマネジメント手法――①伝統の戦略的マネジメント(制御と選択的継承),②伝統の再解釈(意味の再構築)――を提示する。ヤマト運輸・小倉昌夫の事例分析を通じ,制度的慣行の相対化,組織内部知識の選別的継承,創業理念の現代的再翻訳が相互に作用することで,宅急便という革新的事業が創発したことを示す。以上より,本稿は,伝統と革新を対立概念として捉える従来観を超え,ファミリービジネスにおいて伝統が未来志向の価値創造に転換され得る条件を明らかにする。