2022 年 47 巻 5 号 p. 505-512
症例は50代男性.202X年3月に大動脈弁輪拡張症に対して自己弁温存大動脈基部置換術を施行した.手術から2か月後に一過性の右麻痺・嘔吐で当院受診し,胸部単純CTにて大動脈基部から上行大動脈周囲に液体貯留が疑われ入院となった.経胸壁心エコーで大動脈基部周囲にエコーフリースペースを認め,右冠尖と無冠尖の交連付近からto and froパターンの血流シグナルを認めた.また,大動脈周囲に著明な充実エコーを認めた.その一部は収縮期に可動性を認め,動脈血が流入していると考え,左室流出路破裂による仮性動脈瘤を疑った.造影CTでは大動脈基部から上行大動脈にかけて巨大動脈瘤を認め,大動脈基部付近から造影剤が漏出していた.各検査から左室流出路吻合部破裂による仮性動脈瘤と診断され緊急手術となった.
術中所見では右冠尖と無冠尖交連部弁直下の左室流出路吻合部に亀裂が認められたが穿破は無く,亀裂部のフェルト閉鎖と大動脈弁置換術が行われた.
大動脈周囲にエコーフリースペースを認め,血流情報を詳細に観察し解析することで重篤な合併症を迅速に診断することができた1例を報告した.自己弁温存基部置換術後の検査には術式をよく理解することが重要と考えられた.