抄録
本稿では、『金瓶梅』にみえる、室内の細扇(折戸)、落地罩などの仕切り、移動可能な屏風や衣架などの家具類、架子床の帳、開口部の簾、幕などを総称して「隔」と定義し、その用例のうち、「隔」の要素としての屏風について考察を試みる。『金瓶梅』の記述とその挿図を資料として、場所を構成する「隔」のうち、屏風について考察を行い、おもに以下のことが明らかになった。(1)『金瓶梅』にみえる「軟屏」は、座屏風を示しているが、明代に日本より献上された日本式屏風「軟屏」とは異なる。このことについての論拠は不明であり、今後の課題とする。(2)屏風は、形態により、小座屏風、座屏風、圍屏、吊屏に分類される。(3)屏風は、美術工芸品として重要視され、その数量によって富裕層であること及びその家の権威性が示される。(4)屏風の形態、用材、図案・紋飾により、それぞれの場所の特性が構成されるとともに、登場人物の社会的身分や生活様式が表現される。また、使用に関しての社会規範がみえる。