抄録
伝統工芸品のように、制作物にまつわる歴史や製作者の語りが重要な意味を持つ商品では、消費者にそれらのストーリーをわかりやすく伝えることが重要視されている。しかし、商品の販売時にストーリーを開示するだけでは、製作者と潜在的な購入者との間の長期的な繋がりを生み出すことはできない。なぜなら、等価交換、つまり確定的な価値を持つもの同士の交換は、人と人の長期的な関係づくりに適していないからである。
本稿では「伝統工芸のかけら」企画[1]で考案した交換の方法をもとに、対価の支払いではなく「おかえし」をすることでつながりを生み出す、互酬的交換の設計について考察する。この交換の仕組みは、伝統工芸に限らす、文脈に重要性がある表現行為、ものづくり全般に応用できると考える。金銭を介した等価交換を目的としたものづくりであっても、作り手と使い手との関係性を構築するためには互酬的交換を並行して行う必要がある。互酬的交換の仲介は、デザイナーの重要な仕事であり、今後深く研究すべき分野だと考える。