多様な人々へサービスを提供する公共施設は、利用者中心のデザインが求められる。そのデザインは、様々な利用者の身体性から導かれた根拠に基づくデザインである。
現在、バリアフリー法等の整備により、公共施設においても誰もが利用しやすい施設を目指して整備が進んでいる。その一方で、画一的なバリアフリー整備による利用者間の利害摩擦(コンフリクト)が課題となっている。「お茶の水・井上眼科クリニック」は、視機能に障害を抱える患者が、受付から検査、診察、会計への一連の移動をおこなえるように、患者の身体性に着目した実践的な調査が行われ、その成果が施設デザインに生かされてきた。そして、そこで獲得した多くの知見は、幾つかの庁舎施設のデザインへと展開されている。いずれの施設も、目の見えづらい利用者にも分かりやすいサイン基準による視覚情報と床材による触覚情報等を連携させ、視覚障害者の利用を前提とした複数の感覚情報による情報提供が特徴的である。
コンフリクトの解消を意識したこれらの事例をもとに、様々な利用者の身体性に着目したエビデンス・ベースド・デザインによる情報提供の重要性について考察する。