抄録
本研究の目的は、デザイナーと市民が互いの専門性を理解し、活かし合う関係性をつくっていく過程を通してデザインを始めていくという当事者デザインの方法論を実践的に模索することである。これまでに筆者らは工芸品の1つである貼箱を製造する老舗貼箱屋M社を舞台としたデザイン実践を行ってきた。今回は実践家の視点からデザインプロセスを記述する方法を模索した。ある出来事における主観的な解釈による語りであるナラティブに着目し、実践家自身がナラティブとしてプロセスを記述する手法を提案する。リースマンは形の整ったナラティブの要素として「概要」「オリエンテーション」「行動の展開」「評価」「帰結」「結尾」の6つの要素を挙げる。これらの要素について、筆者自身がデザイン実践家として記述を試みた。その結果、実践中に残したノートやスケッチ、制作物の画像といった記録からデザイン実践家が活動を振り返ってプロセスを記述することは可能であることが示唆された。デザイン活動に埋め込まれた実践家の知からデザインの方法論を構築していくために誰が、何を、どうやってデザインプロセスを記述し、その結果からどう分析していくかというデザイン研究方法についての議論が必要である。