本研究は、コミュニティにおける地域住民の主体的な活動を“育む”デザインプロセスと、そのために使われるデザイナーの能力の模索である。奈良県で福祉活動を行う「あたつく組合」の活動に参加した3ヶ月間の調査では、彼らが形づくる暮らしの中に既にある豊かさを見いだした状況をスケッチと文章表現の方法で記録した。その記録を元に「栞(しおり)」という名刺大のカードを制作し、筆者が調査の中で見つけた豊かさを発信し、それを他人が追体験できる仕組みを設計した。制作した仕組みは組合関係者・外部者に公開した。以上のプロセスに使われたデザイナーの能力は「①観る力」「②感じる力」「③描く力」「④伝える力」「⑤巻き込む力」にまとめることができる。そして、デザイナーはこれらを繰り返し実行することで、現地で主体的に実践をする住民を巻き込み豊かさを深め、外部者を巻き込み豊かさを広げることで、もともと存在する地域の文化や地縁、住民個人の持つ多様な生き方や価値観との軋轢を生むこと無く、住民がより豊かな暮らしを実現できる自律的な循環の形成の促進が期待できる。