2008年に発刊されたハーバードビジネスレビュー「優位の教訓」において米国デザインファームIDEOのCEOであるティム・ブラウンがエスノグラフィーを応用したデザインシンキングに関する論文を発表して10年以上が経過した.米国のスタンフォード大学d.schoolをはじめ,シリコンバレーの各企業においてもイノベーション創出の手がかりとしてデザイン思考が用いられるほか,日本国内においても,同様のアプローチや人間中心設計の視点から問題発見・解決を目指す方法として,デザイン思考をもとにしたカリキュラムやプログラム,ワークショップなどが多く実施されるようになり,今日ではその言葉も広く認知されるようになった.デザイン思考をもとにしたプログラムやワークショップの多くは,これまでデザインと深く関わってこなかったエンジニアリングやビジネスなど,いわゆる非デザイナーに向けて実施されてきた.一方で,こうした分野では,問題発見・解決を目指す手法として注目されているにもかかわらず,まだまだ限られた範疇での活用にとどまっている.
;そこで,本研究では,デザイン思考の新たな活用範囲の可能性を探ることを目的として,筆者が所属する長岡造形大学の設置者である長岡市の行政職員に対して,「デザイン思考体験研修」を実施し,研修後のアンケート結果をもとに行政職員のデザイン思考に対する理解とその享受について考察する.