抄録
本研究は、地図制作を通じて世界観の表現と他者の環世界に対する探求をおこなった。環世界はユクスキュルによって「生物がそれぞれ知覚する世界」と定義されたが、近年では人間同士の文化的背景の違いから生じる世界観の理解にも応用されており、デザインやメディア表現が他者の環世界に対する想像を促すことが指摘されている。そこで、能動的なデザインを通して環世界を想像する表現媒体としての地図について検討するため、筆者は2025年3月に個展を開催し、21点の地図作品の制作をおこなった。来場者に対するアンケート調査をおこなった結果、地図という形式が持つ既存の枠組みを活用しつつ、異なる文脈や視座を導入することで、鑑賞者に世界の見方に対する揺さぶりを促すことができることが示唆された。また本研究での地図制作は、さまざまな表現方法の中でも地図という形式は「世界観」や「視座」を形成するという特徴を持つことを実践的に示した。地図には視点の提示を超えて空間認識の枠組みそのものを再構成する力があることが従来から指摘されてきたが、今回制作した地図のような手法にその特性が顕著に現れることを示した。