1999 年 45 巻 5 号 p. 51-60
東京都西部の多摩丘陵で江戸時代から続けられた篭作りを事例とし, 在来技術の自然的・社会的環境との密接な関連性を明らかにした。具体的には次のような要因を導き出した。1.篭作りの材料は雑木林の独自の生態系に含まれる植物であり, その材料を積極的に利用した。2.篭作りは雑木林を活用した生活のサイクルに組み込まれており, 冬期の現金収入の手段であった。3.篭作りの仕事は男女の役割分担がはっきりしており, 主要な部分を女性が担った。4.篭作りの技術には計画思考と身体技法の二つの側面があり, 身体技法の伝承・伝播には女性が重要な役割を果たした。結果として生活している人々の慣習的な考えと行動の中に在来技術は成り立っていることを具体的に明らかにした。そして, 自然および社会との関係性の中で技術をとらえる必要性と, 技術を言葉で伝えられる部分と身体で伝える部分から分析する必要性を示した。