2003 年 49 巻 5 号 p. 21-30
韓国の平坦部渓谷面の民家における伝統的な苞の使用特性を把握するため、当該地域の民家における苞の使用について観察・分析し、次の諸点が析出された。(1)地域内での自作:購入された苞があるものの、藁を素材とする苞は自作された。(2)環境に対応した素材活用:入手・工作の容易な藁を素材とする多様な苞が稲作経営と対応して制作された。(3)生活に対応した形態:収穫から貯蔵までの階梯に対応した苞づくりがなされた。(4)生活空間構成に対応した使用秩序:苞の機能と収納空間との間に一定の秩序が形成されていた。(5)家々の経済力の象徴:苞の所有量と大きさ・容量が家々の所有耕地面積を反映していた。(6)信仰観念に結びついた使用規範:稲作の平安を祈念する信仰用具として苞が活用された。(7)人間関係の調整と共同体的社会の維持:苞の賃借によって家々の絆が維持された。(8)資源循環型利活用サイクル:最終的に土に返される苞の文化は不断の資源循環型物質文化をなしていた。