2009 年 55 巻 5 号 p. 5_19-5_26
本稿は、中国における意匠権保護のあり方を導出するための一過程として、古文献に基づき、古代中国における「模倣」の観念について考察したものである。
その結果、以下の知見を得た。
かつての中国において、「模倣」は「臨模」という概念でとらえられ、学習過程でなされるべき行為であった。また、その体験を通して、ものの創造行為に対する敬意を涵養しつつ、自らの独自性が培われた。「模倣」は、決して悪の行為としてみなされることなく、学習・鍛練に不可欠な奨励すべき行為として位置づけられていた。「型」「手本」への出会いを喜び、その「真」に近づくべく徹底した「模倣」を積重ねることが、オリジナリティのある自己の世界の創造に通じると考えられていた。
「模倣」に関するこのような観念は、今後、知的財産としての意匠権のあり方を考えるにあたって、多くの示唆を与えてくれる。それゆえ、古代中国における「模倣」に関する観念は、今日、再認識されるべきである。