デザイン学研究
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絵巻物に描かれた「傘」の意匠 : ヒトとモノとの社会的・文化的関係性に関する研究(1)
堀口 利枝宮崎 清
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2009 年 56 巻 3 号 p. 89-98

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抄録

本研究は、平安時代から室町時代までの約400年間に描かれた絵巻物に登場する傘の意匠について、観察・解析したものである。絵巻物に登場した傘の図像は303点であった。それらより、傘の意匠の特質を次のように導出した。(1)絵巻物を通してみられる傘の多くは開閉可能で、平安時代には覆いが大型であったが、鎌倉時代以降に小型の覆いをもつ傘が現れる。それに呼応し、短柄の傘が出現する。(2)覆いが小型の傘の登場により、鎌倉時代以降、傘を使用する階層が拡大するとともに、差しかけられる形態から、傘の柄を自ら保持する形態に変化していく。(3)階層ごとに、使用する傘の形状、覆いの大きさ・色彩・材質に一定の関係性がみられる。(4)祭りに使用される傘には、神を迎えて時間空間を同一化する意匠がうかがえる。(5)往時の人びとの傘の使用には、陽よけ・雨よけの物理的機能に加え、傘によって表象的・結界的な時空間を演出・創出する企図がみられる。

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© 2009 日本デザイン学会
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