2013 年 60 巻 1 号 p. 1_27-1_32
本稿は、景徳鎮における製磁生産を支える雇用体制の特質を、文献ならびに現地調査によって析出したものである。その結果、次の諸点を明らかにした。(1)今日の景徳鎮における製磁生産は、機械化による大量生産工場建設を目指した開国期の50年間に亘って停止・封鎖された伝統的手づくり磁器工房が蘇り、細分化された分業体制のなかで行われている。(2)各工房は事業主・窯元を核として製磁生産工程の個々に対応するかたちで専業化・専門化した事業を担い、それらが連結することによって個々の景徳鎮製磁が生産されている。(3)およそ2000年に亘って展開・継承されてきた景徳鎮製磁産業は極めて細密に編まれた雇用制度に厳然として依拠しており、景徳鎮における経営・交易のみならず、人びとの生活文化・親族関係にまで広く深く浸透し、景徳鎮におけるすべての人びとにとって極めて自然・当然のこととなっている。(4)機械化・工業化が進む今日の陶磁器生産の世界のなかで、景徳鎮における徹底した分業化に基づく雇用体制は、景徳鎮の没落を繋ぎ止めたという点で、世界でも稀有な存在であるといえる。