2017 年 64 巻 3 号 p. 3_51-3_60
台湾新北市に位置する三峽地域は,かつて台湾のなかで最も藍染が盛んな地域であった。しかし,現在では産業としての藍染は姿を消し,当該地域のアイデンティティを維持しつつ地域活性を展開することが求められている。本稿では,「三峽民権老街」が建設された当時の街路空間の文化的特質を把握し,今後の三峽地域のあり方を追求することを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の各点が明らかになった。(1)三峽民権老街は総督府の命によって再建が開始されたが,建物のファサードに付された装飾文様には,中国式,和式,洋式ならびにそれらの融合型がある。なかでも中国式が最も多く,これは,日本統治下でありながらも当該地域の人びとの主体性に基づいて装飾が施されたことを意味している。(2)建物のファサードに付された装飾文様には,当時の人びとの生活に対する願望が反映されている。(3)隣家同士で装飾文様の素材やモチーフが同じであるなど,何らかの形で協力して行われた様子がうかがえ,地域共同体としての連帯意識の強さがみて取れる。