2025 年 72 巻 2 号 p. 2_27-2_36
本研究は,認知心理学の視点から深い観察を促すためのプロダクトデザイン教育について,デザイン研究アプローチによる実践と改善を行ったものである。大学のデザイン課題で初めに取り組む観察は,一般的に五感を通して行われるが,知覚された情報を自覚的に捉えないと新しい発見を見逃す場合も多い。そこで,五感からの情報を自覚的に観察するための教授法として5つのデザイン原則を仮定した。原則に基づいた授業実践では,事象を自覚的に捉えるための認知心理学に関する講義を挟んだエクササイズの後,2段階の観察と記録の整理,それを踏まえたデザインコンセプト立案と発表を実施した。授業実践の教育効果に関する定性的・定量的評価を行った結果,エクササイズを通して五感を自覚した観察ができるようになったと感じることで,発想につながる観察へと深化する可能性があることが示された。一方,認知した情報から生起した感情や行動にも着目させる観察記録フォーマットの検討や,アイデア展開を見据えたデザイン原則の構築といった課題が明らかになった。