現行の科学教育が学習者の関心を促す効果をあげていないことは永く問題視されてきたところである。科学教育に関する学習意欲の向上は、現行の教育体系のもとでの教育・学習方法の手直しや、個々の教材の改善ないしは開発研究だけで解決できるものとは思われない。学習者から見て、"科学" は依然として科学者のための学問であり、たとえば人文・社会系の生活を指向する一般市民には、およそ無縁のもの見られている。生物の観察や栽培・育成程度の科学学習のみを選択履修して自然科学系の必要単位を充たし、現代の科学的教養を備えた人間形成を自任するごとき感覚では、科学技術革新の現世に処する人格とは言いがたい情勢になっている。現行の科学教育の学習意欲向上の問題に水をさす意図は毛頭無いが、一層現実を見直して、科学教育の指向するべき方向についての提言を供したい。