本研究では,甲斐ら(2016)の先行研究から,絶対的スケール概念の構築には,「肉眼で見ることのできる最小の長さは0.2mm である。」というような,学習者の観察経験にもとづく情報の有用性が示されたことから,本研究では,顕微鏡での観察経験にもとづく情報を提示することの有効性を明らかにすること,また,それに加え,相対的スケール概念の構築に向けては,「生物の個体は器官があつまってできており,器官は組織があつまってできている。」のような生物の階層性を示唆するような情報を提示することの有効性を明らかにすることを目指して大学生を対象にスケール概念の認識について調査した。その結果,前回と今回の調査を通して,一部の学習者はDNA が実体のないものとして捉えている傾向があることが伺えた。今回の調査では,前回に比べるとそのような傾向は減少しているように見られるが,一方で,1m 以上と捉えたり,光学顕微鏡で見えるとして捉えていたりしている回答者が増えてしまっていた。この理由としては,DNA の抽出実験が教科書に記載され,実際に見たという経験が影響を与えていることが考えられる。また,観察経験に基づく情報が絶対的スケールの構築に効果があることがわかった。しかし,赤血球は実際より小さく捉えていることや,葉緑体を実際より大きく捉えていることから,どの倍率でどのくらいに見えたかという認識はあまりないと考えられる。したがって,観察・実験を行う際にも,顕微鏡で見えた大きさと倍率からどれくらいの大きさであるかを求めさせたり,大きさがある程度わかっているものを観察する際にどれくらいの倍率で観察するのが適切かを考えさせたりする活動などを行うことで絶対的スケール概念の構築を促すことができるのではないかと考えられる。