2020 年 35 巻 4 号 p. 27-32
英国のナショナルカリキュラムでは,生物・化学・物理を横断する内容領域として「Working Scientifically(WS)」が設定されており,科学を学ぶ上で身につけるべき考え方や技能が育成されることが目指されている.そこで,WSで扱われる内容を日本の理科カリキュラムに取り入れることで,生徒が理科を学ぶ意義をより理解し,科学的な思考力・判断力や学習意欲の向上に繋がると期待される.
これまでの研究から,英国では生物・化学・物理の学習全体で,全てのWSの内容が指導されているのに対して,日本ではWSにあたる内容が部分的に扱われ,全くあるいはほとんど扱われていない項目が少なくないことが明らかになっている.本研究では,日本で取り扱いの少ないWSについて,英国の例を参考に小学校の授業案を作成しその効果の検証を行った.
誤差の原因(人による不確かさ,機械による不確かさ)と外れ値(極端に数値が異なるもの),及びばらつきのあるデータの傾向を見ること(だいたい同じという見方)に重点を置いた特別授業を公立小学校第6学年2学級55名に対して,2020年7月に実施したところ,実施前後の意識調査において,誤差の原因に対する見方(人による不確かさ,機械による不確かさ)の意識が有意に高まり,データの不確かさに関する問題の調査において,誤差の原因に対する見方と外れ値(極端に数値が異なるもの)に関する見方の結果が有意に上昇した.このことから,日本の小学校において実験データの不確かさを指導することの有効性が示された.