抄録
本稿では,日本で突然発生したレタス黒根病およびその病原菌Berkeleyomyces rouxiaeに関する一連の研究成果を紹介する。B. rouxiaeは,レタス黒根病が確認される前から日本に分布し,レタス以外の様々な植物に病害を引き起こしていた。しかし,これらの菌株のレタスに対する病原力は弱く,レタスへの接種と再分離を繰り返しても病原力の上昇は認められなかった。また,マイクロサテライマーカーにより系統解析を行った結果,レタス黒根病菌は,従来日本で他の植物に発生していたB. rouxiaeとは遺伝的に異なる,特異な菌群であることが示された。また,日本のレタス黒根病菌は米国カリフォルニアで発生している菌とも遺伝的に異なった。従って,日本で発生したレタス黒根病の伝染源はまだ不明なままである。レタス黒根病に強い感受性を示すレタス品種が古くから日本に存在したことは,病原菌側の変化が病害の発生に関与する可能性を示唆する。一方で,近年になってサリナスタイプの品種の中に感受性の強いものが増加していることも,レタス黒根病の発生が顕在化した一因かもしれない。本病害の理解や対策のためにも,今後予期しない新病害の発生に備えるためにも,更なる研究が必要である。