抄録
亜鉛は必須微量元素のひとつであるが,周術期の動態に関する報告は少ない.消化器手術 319 例(胃切除 178 例,大腸切除 73 例,膵頭十二指腸切除(PD)53 例,肝切除 15例) を対象とし,周術期の血清亜鉛値を測定した.また尿,膵液,胆汁中の亜鉛排泄をPD 症例で検討した.胃切除症例では術前亜鉛値と術後合併症との関連を調べた.術前亜鉛値は 75.5±12.1μg/dl と低下しており,65μg /dl 未満の症例も 17.6%にみられた.術前亜鉛値とアルブミン値は正の相関関係を認めた(R=0.56).血清亜鉛値は術後 1POD で低下し,その後 7‐14POD で術前値に復した.低下の程度は膵,肝切除で胃,大腸切除に比して大きかった.胃切除症例では亜鉛低値群(65μg /dl 未満)で炎症性術後合併症の発生率が高い傾向にあった(P=0.10).排泄経路の検討では,胆汁にはほとんど排泄されず,膵液,尿中に排泄されていた.周術期の亜鉛は大きく変動しており,亜鉛補充も考慮にいれた周術期管理が必要である.