外科と代謝・栄養
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特  集
予後向上を目指した外科侵襲制御の可能性について
土岐 祐一郎瀧口 修司山崎 誠黒川 幸典高橋 剛宮崎 安弘牧野 知紀森 正樹
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キーワード: 手術侵襲, 癌再発, 臨床試験
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2016 年 50 巻 5 号 p. 279-283

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抄録

 古くより術後合併症が全生存率だけではなく癌特異的生存率を悪化させることは知られていたが,これは進行した癌や生物学的に悪性度の高い癌では術後合併症が生じやすいためと説明されていた.しかし,内視鏡手術,リンパ節郭清,手術アプローチなど手術に関するランダム化試験が行われた結果を総合的に判断すると,手術侵襲そのものが癌の予後を悪化させる可能性を完全には否定しきれない.手術侵襲や術後合併症に代表される炎症反応や炎症性サイトカインが癌の増殖に有利に働くというのは確かに理解可能であるが,一方で数年に及ぶ再発までの時間を考えると僅か数日の術後の炎症反応がなぜ数年後の癌の予後まで悪化させるのかという疑問が残る.根治切除後の癌の再発とは微小遺残癌細胞によるものである.手術操作による揉み出しは血液やリンパ組織の中で浮遊した癌細胞を増やすと考えられる.そのほとんどは組織に生着することなく死滅するが,炎症反応やサイトカインは浮遊癌細胞の生着を助け,癌の転移を促進している可能性がある.浮遊癌細胞の生着という転移形成にとって最もクリティカルな時期は手術から数日間に一致しており,この時期の炎症反応の制御が癌の再発にとって最も重要な時期であると考える.これらの現象より手術侵襲を抑制することにより癌の再発を抑制することが可能であると考えられる.臨床研究で証明されることが期待される.

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© 2016 日本外科代謝栄養学会
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