外科と代謝・栄養
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アミノ酸学会ジョイントシンポジウム
AS-3 サルコペニア対策におけるアミノ酸の役割
小林 久峰
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2018 年 52 巻 3 号 p. 69

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抄録

 骨格筋の量は加齢とともに徐々に減少する。その結果、高齢者においては、筋量と筋力・筋機能の低下を特徴とするサルコペニアが生じる。これは、歩行能力の低下に代表される運動機能障害や、転倒・骨折リスクの増大に結びついており、高齢者の生活の質の低下、フレイル(虚弱)、自立性の喪失、さらには死亡リスクの増大につながるため、その対策が求められている。骨格筋の量は、筋タンパク質合成と筋タンパク質分解のバランスにより調節されている。骨格筋のタンパク質合成・分解に影響を与える生活習慣は、栄養と運動である。栄養素の中では、特にタンパク質の摂取が重要で、タンパク質の摂取による血中アミノ酸濃度の増加と、骨格筋へのアミノ酸の供給が筋タンパク質合成を引き起こす。しかし高齢者の骨格筋では、同化抵抗性と呼ばれるタンパク質摂取による筋タンパク質合成反応の減弱が生じており、これが原因となってサルコペニアが生じると考えられる。
 高齢者を対象に安定同位体標識アミノ酸のトレーサー法を用い、アミノ酸の中では特に必須アミノ酸の摂取が、筋タンパク質合成を引き起こすために重要であることを確認した。さらに中でもロイシンの含量を約40%に高めたロイシン高配合必須アミノ酸混合物が効率的に高齢者の筋タンパク質合成を促進することを見出した。3gのロイシン高配合必須アミノ酸の摂取が、20gのホエイタンパク質を摂取した場合と同等の筋タンパク質合成を起こすことも確認しており、9種の必須アミノ酸の配合バランスを調整することにより、高齢者の筋の同化抵抗性を克服することができると考えられた。
 サルコペニアが顕在化している地域在住の日本人の75歳以上女性を対象としたランダム化比較試験により、ロイシン高配合必須アミノ酸の摂取は運動との相乗的な効果により、骨格筋量や筋力を増加し、歩行速度を改善することが示された。
 このようにロイシン高配合必須アミノ酸の摂取は筋タンパク質合成を効率的に引き起こし、サルコペニア予防対策手段として有望である。古典的なマクロ栄養素であるタンパク・アミノ酸の機能性と超高齢社会における重要性について考察したい。

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© 2018 日本外科代謝栄養学会
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