外科と代謝・栄養
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アミノ酸学会ジョイントシンポジウム
AS-2 骨格筋萎縮における遺伝子発現制御
亀井 康富
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2019 年 53 巻 3 号 p. 64

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抄録

 骨格筋は人体で最大の組織であり、エネルギー代謝、糖(グルコース)取込み、運動において重要な役割を果たす。適度な運動により、エネルギー消費が増加し肥満が解消され、また糖代謝が活発になり糖尿病が予防・改善されることはよく知られている。骨格筋萎縮や骨格筋機能不全の分子機構が明らかになると、これらをターゲットとした予防改善法の開発が期待される。Forkhead protein-O1(FOXO1)は転写調節因子であり、生体代謝の同化ホルモンであるインスリンシグナルに拮抗する。我々は、これまで個体レベルでFOXO1の骨格筋代謝調節機構を検討してきた。すなわち、エネルギー欠乏により骨格筋におけるFOXO1の遺伝子発現が増加することを踏まえ、FOXO1を骨格筋特異的に過剰発現する遺伝子改変マウスを作製し、FOXO1が骨格筋萎縮を引き起こすことを示した。また、タンパク質分解酵素遺伝子がFOXO1によって転写活性化されることを示した。FOXO1のみならず、転写調節因子PPARγ co-activator 1α(PGC1α)は、骨格筋代謝に重要であることが示唆される。我々は、これまでにPGC1αが骨格筋の分岐鎖アミノ酸(BCAA)利用を促進することを見出した。BCAAのうち特にロイシンにはタンパク質合成促進作用が知られるが、絶食など筋萎縮が生じる状態ではロイシン量が減少するとともにタンパク質合成は減少する。すなわち、BCAAの分解を抑制することにより筋萎縮の抑制が期待される。一方、筋萎縮を抑制する食品成分を探索する過程で、ビタミンDがFOXO1の転写活性を抑制することを見出した。筋萎縮状態のC2C12筋芽細胞にビタミンDの処置によってタンパク質分解酵素とBCAA分解酵素の遺伝子発現が顕著に抑制された。ビタミンDは高齢者で欠乏しがちであり、加齢性の筋萎縮(サルコペニア)の予防に有効であることが示唆されている。ビタミンDとBCAAの摂取は筋萎縮の予防に有効であるかもしれない。本演題では、骨格筋萎縮時の代謝調節の分子機構について遺伝子改変動物等を用いた我々自身の研究結果を含めて紹介する。

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© 2019 日本外科代謝栄養学会
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