抄録
骨格筋タンパク質の量は、骨格筋タンパク質の合成と分解のバランスにより決定される。したがって、骨格筋量の増減のメカニズムを知るためには骨格筋タンパク質の合成と分解の速度を測定することが必要である。タンパク質の合成・分解速度の測定は同位体ラベルしたアミノ酸を用いた方法が行われていたが、ラベルアミノ酸のタンパク質合成への再利用の問題があり解析が困難であった。我々は、骨格筋タンパク質の分解速度を測定するために、ミオシンとアクチンに局在する非代謝性のアミノ酸である3-メチルヒスチジンを用いた方法を尿だけではなく血中濃度、動静脈濃度差、後肢筋灌流、単離筋肉切片、培養筋細胞においても応用し、正確かつ短期間の筋原線維タンパク質の分解速度を評価する方法を確立した。これらの方法を用いて、食事の摂取に伴う合成と分解の時間的変化が合成と分解で異なることをラットやマウスを用いて明らかにした。
分岐鎖アミノ酸であるロイシン(Leu)は骨格筋タンパク質合成を促進することが知られているが、合成促進はLeu摂取直後に起こり、分解は摂取後3時間程度から抑制された。さらに低栄養時においては、Leuの継続的な摂取は合成は促進しないが、オートファジーリソソーム系を介して骨格筋タンパク質の分解を抑制することを示した。
Lysは不可欠アミノ酸として重要であるが、Leu同様に顕著な骨格筋タンパク質分解抑制作用を示した。この抑制は、Akt/mTORシグナルを介したオートファジー形成のダウンレギュレーションであることをラットやC2C12筋管細胞で示し、さらにLysの代謝産物であるサッカロピンや2-アミノアジピン酸にも同様の効果があることを明らかにした。
サルコペニアに対するLysの効果を老化促進モデルマウスであるSAMP8を用いて検討したところ、36週齢のSAMP8の骨格筋においては、タンパク質の分解速度とオートファジー活性の増加が見られたが、Lysの摂取によってこれらは抑制された。したがって、Lysは老齢においてもオートファジーを介した筋原線維タンパク質分解を顕著に抑制する可能性が示唆された。以上のようにアミノ酸の摂取は、骨格筋タンパク質合成だけではなく、分解も調節することで、低栄養、加齢、疾病時の筋萎縮を抑制できる素材として期待できるものと考えられる。