2020 年 54 巻 2 号 p. 66-70
L‐カルニチンはミトコンドリアでの脂質代謝によるエネルギー産生に欠かせない生体内物質である. 重症患者では代謝の亢進に伴うL‐カルニチンの相対的な不足だけでなく, 人工栄養による摂取不足や血液浄化に伴う喪失により絶対量が低下することがL‐カルニチン欠乏症の原因となる. 自施設のデータでは集中治療室に入室する時点で23.4%の患者がL‐カルニチン欠乏を呈し, 特に血液浄化を施行されている患者ではカルニチン代謝異常を合併する頻度が高かった. 重症患者ではL‐カルニチン不足によるミトコンドリア機能障害から筋力低下や不整脈, 免疫抑制などが起こり, さらに感染性合併症の増加および集中治療室滞在期間の延長につながる可能性がある. L‐カルニチンが欠乏する維持透析患者や長期の人工栄養を受ける患者ではL‐カルニチン投与が推奨されているが, 現時点で重症患者に対する補充療法の妥当性を強く支持する臨床試験の結果は得られていない. 一方, 事後解析では代謝動態から層別化してL‐カルニチン投与が有益となりうる患者群が検出されており, 今後特定の患者群に注目したL‐カルニチン補充療法の有効性を見極めていく必要がある.