2023 年 57 巻 3 号 p. 68-
多くの施設で周術期のERASⓇプログラムが普及してきた。しかし大きな施設であるほど、従来型の管理方法を変える
ことが難しい傾向にあるのではないだろうか。
当院は、2012 年よりERASⓇプログラムを導入し、積極的に取り組んできた。19 床で年間約3000 件(全身麻酔は約2600
件)の手術を行う有床診療所であるが、高稼働運営のためにERASⓇは有用な方法論であり、かつ患者の満足度も向上す
るwin-win の管理方法であった。そして単一病棟であるため、ワンチーム体制を構築しやすく、すべての外科系診療科
に同じプログラムを導入し、実践しやすい環境があった。プログラムは外科から開始し、婦人科や泌尿器科に拡大した。
当初は不安の声があったが、現在は全科でERASⓇが浸透している。
まずは、術前の下剤を廃止し、飲水は手術の2-3 時間前まで可とした。低侵襲手術にこだわり、ドレーンや尿道カテー
テルの留置は極力しない。嘔気嘔吐や痛対策は、術中から強化する。術後は帰室後2-3 時間で飲水と離床を行い、問題
なければ、当日から食事を開始する。高度肥満症に対する袖状胃切除術や胃空腸吻合術後も他の手術と同様に当日に飲
水と離床を行い、翌日から流動食を開始、術後第3 病日に退院している。
また身体的負担だけでなく、経済的負担の軽減はERASⓇの重要なアウトカムであるが、全科の平均在院日数は3.7
日(2011 年)から2.4 日(2021 年)に短縮した。ほとんどの手術で術当日入院としたことは、在院日数の短縮に大きく
寄与した。集患手段としてウェブサイトが大きな割合を占める当院では、「胆石手術が2 泊3 日」などの予定在院日数を
見て来院する患者が多く、多忙な世代を中心に短期入院の需要は高い。今後は、本邦の医療制度、多様化した日本人の
生活習慣、また術式や施設の状況に合わせたERASⓇプログラムを構築していくことが課題であろう。