外科と代謝・栄養
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アミノ酸学会ジョイントシンポジウム
タンパク質摂取とインスリン様活性調節
豊島 由香
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2023 年 57 巻 3 号 p. 73-

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抄録

インスリンとインスリン様成長因子(IGF)-I は互いに似た構造をしているが、異なる生理活性を持つ。インスリンは糖・ 脂質代謝調節に強い活性を示す一方で、IGF-I はタンパク質代謝調節に強い活性を示す。そして、これらのホルモンの活 性は、栄養状態に応じて調節されることが知られている。タンパク質の摂取量が不足すると、IGF-I の血中濃度や活性が 低下して、成長遅滞や筋肉萎縮が起こることが明らかとなっている。他方、インスリン活性の変化については不明な点 が多い。我々は、タンパク質摂取量とインスリン活性調節の関係を明らかにするために、一日のタンパク質必要量を満 たさない低タンパク質食を摂取させたラットを用いて検討を行ってきた。まず、全身の糖代謝やインスリン活性の変化 を解析するために、耐糖能試験やインスリン負荷試験を行ったところ、低タンパク質食摂取ラットでは、グルコースに 応答したインスリン分泌は抑制されるが、インスリン感受性が上昇して、血糖値は正常に維持されることを明らかにし た。次に、低タンパク質食摂取によって、体内のどこでインスリン感受性が上昇するかを明らかにするために、インス リンの標的組織における細胞内シグナル因子について検討した。その結果、低タンパク質食を摂取したラットの肝臓で は、対照食摂取ラットと比べて、インスリン受容体基質(IRS)-2 の量が増加すること、その下流シグナルも増強するこ とが明らかとなった。これらの結果から、タンパク質の摂取量が不足すると、肝臓でインスリンシグナルが増強してイ ンスリン感受性が上昇すると考えられた。本講演では、これらの知見に加えて、近年我々が作出したIRS-2 欠損ラットを 用いて得られた新たな知見も紹介し、タンパク質の摂取量が不足した際にインスリン感受性が上昇する生理的意義につ いて議論する。

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© 2023 日本外科代謝栄養学会
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